箱と永遠の乙女
魚野れん
全てを知った少年と宇宙船のファーストコンタクト
セーレンが目を開けると、そこは何もない空間だった。空虚な世界だったが、いつの間にか女性が立っている。見覚えのある姿にセーレンは瞬いた。
「……あなたは、プラハト?」
「こんにちは、セーレン」
ゆっくりと近づいてくる姿は少女を模している。セーレンは既に、彼女の正体を知っていた。
「あなたが、宇宙船だったんですね」
「私はプラハト。フロイライン。純然たる乙女。輝けし少女。始まりの乙女、そして――光の乙女」
最後の呼び名は、彼女が見せてきた映像記録の多くに映っていた青年――レープハフト――がつけたものである。宇宙船に書いてあるFはフロンティアのFだと全員が考えていたが、今のセーレンは、このFがフロイラインの頭文字なのだと知っている。
そして、それを書いたのがレープハフトなのだということも。
「自己紹介、ありがとう。プラハト」
セーレンは中身のない人形のような様子のプラハトに、泣きそうになりながらも挨拶を返した。プラハトはレオタードに着物という太古の姿をしている。確か、この姿はレープハフトと出会った時と同じである。
セーレンは、彼女から与えられた情報をどうにか整理する。
プラハトの今の任務は人間を守ることである。この人間、というのは個々の存在という意味ではなく、種族という意味である。
どうりでこの船に獣人などの種族がいないと思った。人間の船だから、ではなく、人間の為の船だったのだ。この宇宙船、フロイラインは人間を守る為のノアの方舟だったのだ。
「プラハト、俺に言いたいことがあるんだよね?」
プラハトは虚ろな目を向けてきた。セーレンが見せられたあの記録では、生き生きとしていた彼女。それが嘘のようだ。
「言ってごらん。聞いてあげるよ」
セーレンは促し、待ち続ける。すると、ようやく彼女が口を開いた。
「私、レープハフトが死んでから気づいたんです」
「うん」
「彼を、愛していました」
光の乙女は空虚な箱の中で、そっと涙を零した。
箱と永遠の乙女 魚野れん @elfhame_Wallen
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