予知能力を持って生まれた私は前世が巫女に違いないと信じて疑わなかった話

夕紅 ルイ

第1話

 これは、奇しくも予知能力を持って生まれたがために、自分が巫女であると勘違いしたまま生きてきたひとりの女の物語である——。


「冷蔵庫がくるくるっと回った……っ!」


 なんとも奇妙な言葉だが、これは実際に私が小さい頃に言った言葉だ。

 今でもその時のことは鮮明に覚えている。

 普通に過ごしている中で急に視界が真っ暗になり、立っていられないくらいのひどい眩暈に襲われたかと思うと、閉じた瞼の裏側にくるくる回る冷蔵庫が現れるのだ。


 体感時間はほんの数秒。

 だけど、当時の私にはこれがなにを意味するのかがわからず、真っ暗な中でくるくる回る冷蔵庫がただただ不気味で、恐怖から涙を流していた。


 これが一種の予知であると気が付いたのは、私の両親と祖母だった。


「冷蔵庫がくるくるっと回った……っ! 冷蔵庫がくるくるっと回った……っ!」


 最初にそう言った時からいくばくか経った頃、私がまた泣きながら、怯えたようにそう言い、母の足にしがみついた。


「……前にもあったよね? どこか体調が悪いのかな?」

「一度病院に行った方がいいかもな」


 そんなふうに両親が心配そうに私を見ていたのを今でも覚えている。

 だが、そんな心配をしていた矢先にある出来事が起こるのだ。



 ——トゥルルルル、トゥルルルル……。



 一本の電話が鳴った。

「はい、もしもし」

「————」

「え……? そうなんですか。突然だったもので驚きました。お悔やみ申し上げます」

「————」

「ええ、はい。参列させていただきます」


 ——ガチャ。




「……電話、なんだって?」

「親戚の山田(仮名)さんが亡くなったと」

「……ねえ、こんなこと言うのはあれなんだけど。前にもルイちゃんが『冷蔵庫が回った』って言ったときに訃報の電話きたよね?」

「…………」


 そうなのだ。

 実は一度目に私が例の言葉を言ったあと、親戚が亡くなったという知らせが来たのだ。

 この二回だけで終わらず三回目の『例の言葉』のあとにもやはり訃報が届き、いよいよ私には『身近な人の死がわかる予知能力』があるのだと家族は驚き恐れていた。


 ……が、しかし。

 三度目の『例の言葉』以降、私の頭の中で回っていた冷蔵庫はいつの間にかいなくなり、そう言いだすことはついにはなかった。



 ——と、ここまでは導入である。


 小さい頃に不思議な力と言っていいのかわからないが、そういう出来事が実際にあったので、私の痛い黒歴史はここから加速していくことになる。


 当時小学生の私はとあるアニメにはまっていた。

 主人公の中学生が自宅の古井戸から妖怪蔓延る戦国時代にタイムスリップしてしまう、というお話だ。

 その主人公は強力な霊力を持っていた巫女の生まれ変わりだと言われ、破魔の矢で戦いながら出会った仲間とともに旅をする。


 ——そう、私はこの主人公の巫女にまんまと憧れてしまったのだ。

 小学生のわりとあるあるだと思うのだが、幽霊が見えるとか霊感があるとか、そう言いだす子がクラスにひとりはいたのではないだろうか。


 もちろん、私はそのひとりであった。


 そこに過去の出来事と例のアニメの影響もあり、「私は霊感があっておばけも見える!」と豪語して回ったのだ。

 もちろん私には幽霊など見えないし、霊感なんて微塵もない。

 あるのは過去に三度身内の死を予知した実績と、根拠のない自信だけだった。


 私には予知能力があったし、霊感もあるはずだと疑わなかった私は、この主人公と同じように浄化の力を持つ破魔の矢を打てるとさえ信じていたのだ。


 といっても、身近に弓矢などあるわけがないので、男の子が丸めた新聞紙でチャンバラをするような感覚で、作ったのだ、弓矢を。


 新聞紙、輪ゴム、セロテープ。弓矢の材料はこれだけだ。

 我ながら器用だと思うが、それなりにしっかりとしたものをつくることができた。

 私は新聞紙でできた弓矢を両手に、いるはずもない魑魅魍魎を倒す旅(近場の散歩)へと繰り出したのだった。

 (ちなみにのちに、私のあとをついて回るようになった妹もこの奇行の贄となったのである)





 と、私の黒歴史はこんなところだが、30代になった今でも夢に見るのである。

 変な呪文を唱えながら悪霊を滅し、背にかついだ破魔の矢で悪を打ち倒す巫女姿の自分の夢を――。

 30代になった今でも、黒歴史は続いているのであった。


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予知能力を持って生まれた私は前世が巫女に違いないと信じて疑わなかった話 夕紅 ルイ @rui_yuhbeni

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