ブロック崩し

ふぃふてぃ

ブロック崩し

 誰しもが気づいた訳ではないが、少しばかり世界が進展する道具が開発された。その名は「ブロック」。要するに箱である。


 その開発者は未だに公表されておらず、作り方も公にはされていない。そのブロックは64㌢四方の立方体であり、炭素が中軸として頑丈に作られている。しかし、カーボンのような既知の技術とは異なると。専門家は口を揃えていった。


 その頑丈なブロックは人が乗っても潰れる事なく、叩くや斬るといった物理的な衝撃にも耐えうるだけでなく、傷一つ作る事は出来なかった。


 また、耐水性にも優れ水を弾き、耐火性も持ち合わせていた。


 一番の特徴はブロック同士が強固に結びつき離れない事である。面と面とを密着させる事で接着され、いちど接着すると外す術が存在しない。そして自立性が高く、どれだけ積み上げても倒れない。


 以上の性質から、家財道具の材料として一部のゲーマーに好まれるようになった。

 ボックスを重ねて脚を作り、面を増やして椅子を作る。または机を作る、ベッドを作る。といったように、立方体をドット絵の様に組み合わせようにして、簡単な造形と個々のオリジナリティが作品となりソーシャルメディアに飛び交かった。


 誰彼が創造物をアップすると、誰彼がそれを真似して、さらに誰彼が工夫を凝らしてアップする。そんな日常が繰り返されていた。



 そんなある日。単純かつ奇抜な発想で一部メディアを震撼させた男がいた。それは、ただただ単純に螺旋階段状にボックスを重ねていき、高く高く聳え立つ何かを作る動画だった。それは、25メートル弱、家にして5階ほどの高さまで積み上がると話題は少しずつ盛り上がり始める。


 そこからは早かった。すぐに10階ほどの高さまで積み上がると、東京のタワマンにも負けない超高層螺旋階段までに発展させた。

 ここまでくると圧感である。地面に吸着したように揺れる事なく自立するブロックの集合体。それは物理法則を完全に無視した建物となっていた。


 支柱もなく安定する螺旋階段の様子は奇妙で、強風ですら揺れる事はない。

 今まで人間が培ってきた叡智を破壊されるような感覚。ブロックの完全な自立性能には、それほどの衝撃が実際にあった。


 ヘブンズロード、天国への階段などと謳われ、投稿主も着実に高さを増やしていった。そして、遂に東京タワーを超えるか!?といったところで待ったがかかったのだった。


 領空審判が始まる。自分の敷地内とはいえ一定の高さを超えた建造物は違反となる。

 田舎のポツンと一軒家に現れた螺旋階段。一見は誰の邪魔にもなっていないかもしれない。

 しかし、法律の上で役人の仕事は早かった。いや、ここまで放置されていたのは意外だったのかも知れない。

 そんな前例のない裁判で、投稿者は多額の罰則金を抱えた後に映像から消えた。そして、超高層螺旋階段だけが、その場に残ることとなる。


 しかし、ここで話は終わらない。


 この物理法則を完全に無視したブロックは、チェンソーで切りつけても重機で叩いても、倒れることはおろか傷一つ付けることが出来なかったのだ。

 それは、まるで空間座標に配置されたかのような摩訶不可思議な物質の証明にもなった。


 この騒動を受けて、巷では使いづらいブロックのブームは過ぎ去ったかのように思われた。

 しかし、それから2年の月日を経て驚きの事態へと発展する。2つの大国が、今回の騒動を超える超高層螺旋階段を発表したのだ。そして、その発表から更に1年経たずで高さを伸ばし、旅客機の走る対流圏を超え成層圏まで手を伸ばしたところで、今度は空の上で敷地を拡げ始めた。


 雲の上の王国。天空の国。ダイクロフトの外殻。天竜人の聖地。様々な声が上がり。両大国から声明が出される事となる。内容は至ってシンプルに「環境保全の為である」というもの。

 

 現行する土地を環境保護区とし、人々は成層圏へと移住。人の住まなくなった大地は、やがて手付かずの自然へと逆戻りする。それは環境保護だけでなく動物愛護などにも善となる。もちろん、それは表向きの解釈。

 その実態は今も昔も変わらずのパノプティコン。要は監視社会の実現だ。では、こんな上空から何を監視するのか?それはモチロン、敵国と売国奴である。


 地上と衛星の中継点として。沖縄に勝るとも劣らない世界の目を駆使しての多国への牽制。


 それは最大限の地政学的リスクへの対処。


 しかし、かつてのメディア騒動でブロックの流通はストップしていた。開発者も行方知れずの状態と知れたところで、過熱するブロックの需要。ゴールドに飽きた資本家たちの活動が促されるのは、それは時間の問題だった。

 

 開発者しか分からない不思議な技術は、再開発はおろか量産される事も出来ず。いちど使用されたブロックの再利用は不可。ブロックは、かつてのビットコインの如くといった具合でマネーゲームが過激化されながらも、世界中から大国へと集められる。

 すると、ブロックは市場からは完全に消え、かつてのお邪魔ブロックから、幻のブロックとして、皆のイメージが変わっていった。


 市場から完全にブロックが消える。そうすると天空人計画が頓挫する訳ではあるが、そんなもの役人官僚には、もうどうでも良い事であった。必要拠点とし基地を設置するには十分だったからだ。


 ブロックの再開発が難しいとなった現在。夢の環境保全。天空人計画が夢物語となった今。世界はブロック崩しに舵を切っていた。

 自国を守る為。地政学的リスクを回避する為の方法を模索して、二つの大国および周辺諸国の国々は、何としても敵国の空まで伸びる螺旋階段を崩してやろうと躍起になっている。


 一度は収束しかけたブロックだが、この64㌢四方の箱は、これからも世界を震撼しつつけることになるだろう。ゲームチェンジャーの道具として、善きも悪しきも世界が本当に手を取る、その日までは……。

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