【KAC20243】落し物は交番へ

ぬまちゃん

こんなもの拾ったんですけど

「すみませーん」

 若い女性が、交番に入ってくる。


「はい、どうしました?」

「そこの路地でこんなもの拾ったんですけど」


 若い女性は、おずおずと警察官に小さな箱を見せた。一見するとオルゴールの箱のような、外側にきれいな装飾を施した小箱。

 その箱を受け取った警察官は、持ち主が確認できるものがないかどうか、その箱の表面を詳しくチェックする。


「うーん、持ち主の名前も書いてないみたいですね。とりあえず危険物ではなさそうなので箱の上蓋をあけてみましょうか」


 警察官が若い女性にそう声をかけてから、蝶番でつながれた箱の上蓋をあけようとした、ちょうどその時。


「待ってください! その蓋をあけちゃダメだ」


 そういって、白い髭をはやしてステッキを持った白髪の老人が、マントをひるがえして慌てて交番に飛び込んできた。


「その箱は、パンドラの箱。それは世の中すべての災厄を封じ込めてある箱じゃ。であるから決して開けてはならんのじゃ」


 老人はそういうと警察官から箱を取り上げようとするが、警察官は自分の後ろに箱を隠して応える。


「パンドラだか、なんだか知らないが、この箱の正当な持ち主である証拠を見せていただけますかご老人。そうでなければ、お返しするわけにはいきません。例えば、箱の中に貴方しか知らないものが入っているとか、それを答えてください」

「箱の中には、すべての災厄を封印した魔法陣が書かれた羊皮紙が入っている。だが、開けてはだめだ。開けたら災厄が外にでてしまう」


 老人の言葉を聞いた警察官は、一切の躊躇なくその箱を開ける。そして、その箱の中に不思議な文様の書かれた紙を見つけると安心したようにその箱を老人に手渡す。


「ご老人、確かにあなたの言うとおりでしたので、この箱はあなたのものでしょう。今後はなくさないようにしてくださいね」


 * * *


 放心したような顔をした老人は、蓋の空いたパンドラの箱を手に持ち、交番をあとにした。

「この世の終わりだ。これで、すべての災厄が放たれてしまう」


 しかし、パンドラの箱の中から彼に話しかける声が。

「安心しろ、俺たちが出るまでもない。すでに多くの災厄でこの世界は満ちているじゃないか」


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20243】落し物は交番へ ぬまちゃん @numachan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ