13話 気味の悪さ
目が覚めた時、僕は夢の内容を覚えていた。
嫌な汗を掻いた。本当に、嫌な感じだ。
何とも言えない気持ちになっていると、スマホから通知音が聞こえた。
どうやら、宅配サービスが使える時間になったようだ。
さあ、何か食べよう。腹に何か入れれば、何か変わるかもしれない。
でも、腹ごしらえをしても、堕落した一日を過ごそうとも、結局その日はいい休日にはならずに溜め息で終わる一日となりそうだった。
あまりいい一日になりそうにない中、僕は適当に選んだ朝食が配達されるまでゲームをして待つ。
そのゲームは最近流行りの……と言っても、もうブームは過ぎているかもしれないが、世界中で話題になったオンラインアクションゲームだった。好きなキャラクターを選んで、バトルする。たったそれだけなのだが、武器は様々でさらにキャラクターによって固有の術があるため、極められるだけ極めた人達なんかはもう凄い。よく動画サイトなんかに上がっているけど、判断力や瞬発力など、そういう能力に長けていないと絶対に無理だろうというくらいの速さでゲームは進んでいく。あと画面酔いもする。
僕はというとそのゲームの一番下のランク。極めるつもりもないから別にいいけど、でも、音声チャットも出来るからたまに外国語で罵声が聞こえると僕のことだろうなぁと思う。もちろん僕は音声チャットには参加しない。だって怖いし。そんなことを思いながらゲームをしていたら、気づけば朝食は配達されていたから、ゲームをやめて朝食を食べることにした。
今日の朝食はハンバーガーにした。ちょっとお高めっていうのが、ポイント。
そのハンバーガーはいつも注文するのだけれど、大きくて味も凄く美味しいから気に入っている。あとアボカドバーガーだから、少しは体にも良いだろう。たまの一食なんて、そんなに影響も何もないかもしれないけれど。
気づけばペロリと大きめのハンバーガーを食べ終えて、僕は手をお手拭きで拭くと、再びパソコンの前に座る。
曲をかけて、僕は小説を執筆することにした。
とは言っても、プロなんか目指してない。プロになるつもりなんて、ない。結構前に自信作を出版社に送って、評価シートを見て撃沈した。弱いやつと言えば、弱いやつ。でも、別の見方をすれば、それだけ諦めがいいから切り傷も薄くて済んだんじゃないだろうか。
そう思わないと、僕は今まで諦めてきた全てに意味がなかったんだと思えなくて苦しくなる。
人生ってどうしてこうも苦しいのか。僕はそればかり気になってしまうわけで。
なんでも諦めてきた。そんな人生だったかもしれない。幼い頃とか、昔すぎることは細かい部分なんかは覚えていないけれど、でも、諦めて得た安堵なんかは覚えているんだ。諦めて、救われることもある。そう信じなきゃ、やってられない。
だから、今書いている小説は夢の残骸。自己満足。結局のところ、自慰行為と一緒なんだ。自分だけ良けりゃそれでいい。どこに公開するわけでもないから、書き終わった後の虚無感なんか、まさにそれ。見られないから許されるようなもんだ。別に、見せてる人がどうとか言いたいわけじゃないけど。少なくとも僕にとっては、自慰行為ってだけの話だ。
カタカタとキーボードを打つ音が部屋の中に響く。――この音は嫌いじゃない。
僕はため息をついて、外を眺める。太陽が大分高い所にある。パソコンの右下の時計を見るとお昼時11時40分だった。会社の昼休憩と同じ時間だ。こんなところまで習慣化されているんだなと思うと社会人の悲しさのようなものを感じた。
でも、体内時計がしっかりしていると思えば、そんなに悪いことのようには感じられない。
まあ、いいか。昼ご飯は、まだ食べなくてもいい。今日はそんなにお腹が空くようなことをやっていないし、考えてもいない。
僕はとりあえず、日本茶を煎れて飲む。今日は静岡産の煎茶。やぶきたの一番茶だ。香りもよく甘味もそこそこ。良質な日本茶で僕は少しほっとした。
明日は仕事だ。だから、ちょっと気が重い。どうせまたあの先輩辺りに怒られるんだ……。
そう思うとせっかくほっとしていたのに心も体も重くなったように感じた。
小説を書く気も起きなくなって、なんだか僕はダメ人間だなぁって思い始める。今に始まったことではないけれど。
仕方ない。こういう時は、ウィンドウショッピングでもしようか。でも出かけるのも面倒くさい。そう思った僕は通販ショップのサイトを開いて見てみることにした。テンションはそう変わらないけれど、多少は気分転換になる。
そして気づけば一時間以上経っていて、カートの中には10個以上商品が入っていた。
僕は馬鹿か。友達がいないからやる予定のないボードゲームばかり5個も買うつもりでいて、しかもこれまた協力プレイが楽しいと話題のゲームばかり買い集めて。あ、でも、指が。マウスを握る手が、指がクリックして、あ、あ……やっちまった。購入してしまった。
合計金額は、どう見ても万を超えている。仕方がない。好きなんだから。仕方ない、なぁ。
明日には届くらしい。仕事の後に見るのを楽しみにしよう。そう考えて、僕は心にある罪悪感のようなものを見て見ぬ振りをした。
……お腹がグゥと鳴る。そろそろ、何か口に入れた方が良さそうだ。とは言っても、冷蔵庫に何もない。かと言って、また配達してもらうのもなんだか手数料とかを考えると勿体無い気がする。でも作るのも……と思って思い出す。近所に弁当屋さんがあったはずだ。唐揚げ弁当でも買おう。そう思って財布と家の鍵だけ持って出かける。
弁当屋に着いて、唐揚げ弁当を買う。しばらく待ってるとすぐに出てきて、それを持って帰路に着く。
ふとぬるい風が吹いて、薄気味の悪さのようなものを感じる。
なんか、人の吐息みたいな感じがしたのだ。
周りをキョロキョロと見たが、誰もいない田舎道しか広がっていなかった。
でも誰かに見られている気がする。部屋の中なら、ぽてとだと思うけれど、でも……いや、考えるのはやめよう。こういうものには、答えがない。それに絶対に気のせいだからだ。
お風呂に入った女の子が覗かれたわけでもあるまいし。
……何故だろう。僕は誰かにどこかでお風呂の時に覗かれた覚えがあるような気がした。気のせいに決まっているけど、でも気持ちの悪さは実際に今、僕が味わっている。
ああ! もう!
僕はどこにやればいいのかわからない気持ちのまま、家に帰り、その勢いで唐揚げ弁当をあっという間に平らげる。
そしてテレビを点けて、適当に映画を流す。ブラウンケットに包まりながら、それを見て感情を出して、鬱憤を晴らす。
それでも、やっぱり全てがなくなりはしない。だから、僕は寝ることにした。
まだ夕方だけど、案外寝ちゃえばもう明日になっているかもしれない。薬も飲んでしまおう。
僕は薬を飲んで、ベッドに倒れ込むようにして寝転がって眠りに就いた。
当然と言えば当然だけど、夜中に目が覚めた。
僕はお風呂に入って、もう一度眠りに就く。案外、疲れというものは溜まっているようだった。だから、眠りに就くのもそれだけ早かったのだろう。
目が覚めたら、またいつもの日々が続いているに違いない。
それが幸せか、不幸せかはわからないけれど。
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