突如として差し込む色
8話 重役出勤
朝目が覚めると、僕は悪夢をうっすらと覚えていた。忘れていた方がよかったようなことなのに。
「あの僕達は、何を言いかけてたんだろう……」
そう呟いてからハッとする。
今、何時だ?
時計を見ると8時20分だった。
遅刻寸前の時間だ!
「不味いっ!」
僕は急いで着替えて朝ご飯を食べることなく車に飛び乗った。
いつもならバスやら電車やらで行くのだが、今はそんなことを言っていられない。
駐車場は少し高いが、デパートの有料駐車場を使わせてもらおう。帰りに何か買って少し安くしたらそれでいいや。
僕はハンドルを握り、アクセルを踏む。すると車から大きな音がして空吹かししてしまった。
そう、ギアをパーキングからドライブに変えるのを忘れていたのだ。
「落ち着け。落ち着け。大丈夫。間に合う」
僕は自分の両頬を叩いてからギアを変えて発進させた。
道はこの時間帯にしては空いていて、スムーズにオフィスの入っているビルまで行くことが出来た。
急いでオフィスの中に入ると、すでにほとんどの人が出社していた。
「ギリギリだったなぁ。坂本」
そう言ってきたのは僕の苦手とする先輩、一条幸輝だった。
この一条幸輝という先輩は、入社当時から僕のことを格下に見てくる嫌な先輩だ。
僕のデザインに不要な手直しをよくしてくる。嫌がらせとしか思えない。
「ギリギリでも間に合ってるから、セーフだと思います」
僕がそう言うと、一条先輩は「そんなんじゃ社会人失格だぞ」とにやにやしながら言ってきた。
その時、背後から「じゃあ、私も社会人失格か。一条」と声がした。
「うげっ、常磐津先輩。ち、違いますよぉ。常磐津先輩は重役出勤が許されるんです。才能ありますし。こいつにはないですけど」
おい。こいつとはなんだ。こいつとは。
「お前も昔は坂本よりも遅刻ギリギリのことが多かったじゃないか。それに、私だって重役出勤なんて許されないんだからな」
「冗談ですよ、冗談ー……」
一条先輩の頬が引き攣っている。ざまあみろ。
「ほら、お前達。早く自分のデスクに行きなさい。もうすぐ始業時間だ」
そして僕達は自分のデスクに向かって行った。
ただ、一条先輩が僕を睨んでいたような気がする。睨まれたところでどうでもいい。大したことが出来ない小物なのだから。
そんなことを思いながらデスクに残された僕から僕への付箋を見る。
するとそこには今日は色校正と書かれていた。
……僕はこの色校正が苦手だ。女性の方が得意なはずなのだが、まあ、仕事だからやるしかないか。
色彩能力検定2級の目はまだ現役……だと思いたい。
そんなことを思ったところで朝礼が始まった。
朝礼後はいつものように仕事に入るのだが、陣内が何故か哀れなものを見る目でこちらを見ていた。その意味はすぐにわかることとなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます