3話 自分のデザインとクライアントの作品

 会場に着いて、中に入る。

 いろいろな作品が並ぶ中、僕の作品もそこにあった。ただ、その作品は手直しをされていたものだった。

「やっぱり、いいな。お前のデザイン」

 やめろよ。そんな言葉。いいなんて、そう思うならどうして手直しをしたんですか。

「多分、お前は……坂本は、自分の作品を変えられたやつだからとか思うかもしれないが、それは、それだけ使えるデザインだからってことだ。期待されてるんだよ。それとな」

 僕は何を言われているのかわからなかった。ただ、使えるデザインってなんだろうと、それが頭の中にポツンと浮かんでいた。

 そして常磐津さんは僕の方をしっかりと見てこう言う。

「デザインは、自分の作品であり自分の作品じゃない。これはクライアントの作品になるんだ」

 そうだ。確かにそうだ。デザインはクライアントのためのものだ。だけど、それは……。

 僕は改めて作品を見た。とても苦労した作品で、いろいろと試行錯誤したことを覚えている。

 この作品は確かに、僕が最後に出したデザインよりもブラッシュアップされている。だけど、僕の作品には思えない。大きく手直しされているわけではない。でも、でも……。悔しいな。

「ここにあるのはお前の作品じゃない。……お前の作品でも。もう、クライアントのものなんだよ」

「はい……」

 なんとも言えない、そんな空っぽな気持ちになった。

「さて、何を食いたい?」

「……ジョジョエンの焼肉」

「高っ! お前のデザイン料高すぎるって! でも焼肉か。だったら、焼肉丼でいいか?」

「はい」

 常磐津さんはオフィスから結構離れたところにあるこじんまりとした焼肉屋に僕を連れていってくれた。

 そこは個人経営の焼肉屋みたいで、僕はどんなものが出てくるのだろうと少し楽しみにしながら席で待っていた。

 常磐津さんが注文してくれた焼肉丼が届くと、いい香りがして食欲をそそる。

「私も、昔作品が受賞した時に、自分の作品ではないなと思ったことがあるんだ」

 僕は焼肉丼を頬張りながら耳を傾けた。

「いっぱい手直しもされたし、最終的に自分がやろうとしていたことじゃなくなっていたからな。でもな。それでも、自分の作品だ。そしてクライアントの作品だ。独立してくんだよ、作品は……」

 常磐津さんの顔を見る。いつもの余裕な顔ではなくて、どこか懐かしむような、切ない表情を浮かべていた。

「寂しいもんだよな。生みの親からするとさ」

「……常磐津さんって、母親の方?」

「なんでそんな話になる。母親じゃないだろう。このガタイの良さから違うのがわかるだろ。坂本ならともかく」

「僕だって、母親じゃないです。神ですから」

「ほう。じゃあ、坂本神様、午後からもよろしくお願いします」

「はい」

 まあ、神様って思ってるのは少し本当。


 午後の仕事もいつものようにこなして、僕は家路に就く。

 毎日、起きたら家を出て、仕事をして、家に帰ってという繰り返し。

 ベッドで横になると、気づけば寝ている。

 変わり映えのない毎日。それでも、生きなくちゃ。

 僕は。

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