第293話 予感

◇レザミリアーナside◇

 食事が終わり、すぐにエリザリーナとフェリシアーナの元から去ったレザミリアーナは。

 一直線に王城内にある訓練場にやって来て、剣を振っていた。

 そして、ある程度鍛錬を終えると、一度手を止めて先ほどの食堂での会話を思い出して呟く。


「……エリザリーナは、もう好意を抱いている男性に愛を伝えたのか」


 そして、それと同時にエリザリーナの言葉を思い出す。


「────その相手の男の子が魅力的であればあるほど、早くプロポーズしないと恋敵に取られちゃうからね〜!」


 その言葉を思い出してレザミリアーナが次に思い出すのは、ルクスに婚約の話を持ちかけているというフローレンスの顔だ。


「商業体験の時は、剣術大会の時と比べそこまで関係性が進展しているようには見えなかった……が」


 表面的には見えないところで、少しずつ関係性が進んでいるだろうことは間違いない。


「私は、ロッドエルと結ばれ、私がロッドエルのことを幸せにすると胸に誓った」


 だから、本来であれば。

 今すぐにでも、エリザリーナのように積極性を持ってルクスと関わっていきたいところ。

 だが……


「その前に、私にはがある」


 レザミリアーナが、ルクスとの関係性を進める前にやらなければいけないこと。

 それをやらなければ、レザミリアーナは決してルクスとの関係性を進めることなどできない。

 そして、そのやらなければならないことを行う場こそが────


「……ロッドエル」


 ────本当であれば、今すぐにでも君と話したい。

 ────本当であれば、今すぐにでも愛している君と大好きな剣について話したい。

 ────本当であれば、今すぐにでもまた君と一緒にパンを食べたい。

 ────本当であれば、今すぐにでも君の笑顔が見たい。

 ────本当であれば、今すぐにでも君を愛し……君に愛されたい。


「だが、私は……」


 ルクスのことを愛しているからこそ、今はまだルクスと接することはできない。

 今は、この愛を溜め込むことしかできない。

 が────確かに胸の内に存在する、ルクスに抱いている愛を感じながら。

 そして────


「いずれ、また必ず君の元へ、君の隣へやって来る……だから、その時を待っていてくれないか?」

「はい!」


 あの時の約束を思い出しながら……

 レザミリアーナは、再度剣を振り始めた。



◇フローレンスside◇

 同じ頃。

 フローレンスは、アシュエル公爵家を訪ねており。

 門兵がアシュエルのことを連れてくると────


「来たわね!フローレンス!」


 フローレンスの姿を見たアシュエルは、大きな声でそう言った、


「はい、アシュエル様……約束通り、訪ねさせていただきました」

「入りなさい!」


 アシュエルにそう言われたフローレンスは、アシュエルと共にアシュエル公爵家の中へ入る。

 すると、アシュエルは得意げに口を開いて言った。


「それにしても、あんたも可哀想ね!エリザリーナ様の催し事に招待されなかったせいで、こうしてわざわざ催し事が終わった後で私に今日の催し事で何があったのか聞きに来なくちゃいけないんだから!」


 可哀想と言いながらも、とても楽しそうに言うアシュエル。

 に対し、フローレンスは普段通りの様子で言った。


「第二王女様自らが主催なされた催し事に興味を持たないというのは難しいことですので、致し方ありません」


 むしろ、と続けて。


「招待されなかった身でありながら、そのお話を聞かせていただける私は幸運なのだと思います」

「そうね!それも、全てはこの私のおかげよ!私の!エリザリーナ様に見放されて招待されなかったあんたに、特別に私が手を差し伸べてあげるの!本当、感謝しなさいよね!」

「はい、もちろん感謝しております」

「っ!」


 それから、フローレンスはどこまでも上機嫌なアシュエルと共に、アシュエルの自室へと向かった。

 今日、フローレンスがアシュエルの話を聞いて知りたいことは二つ。

 一つは、純粋にエリザリーナが今日どんな催し事を行なったのかということ。

 そして、二つ目は────何故、多くの公爵家の人間が招待される中、自惚れているわけではなく事実としてこの国の中でも大きな力を持つフローレンス公爵家の令嬢である自分が招待されなかったのか。

 その先には、今後重要となることが隠されている。

 フローレンスの中には、そんな予感がひしめいていた────



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最近雇った独占欲の強い美少女メイドが、実は王女様だった。 神月 @mesia15

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