第292話 一手

「────では、各自自由に行動してくれ……ただし、もう夜だ、無理をして明日に支障が出ないようにな」


 三人での食事が終わり。

 食堂から出ると、レザミリアーナがそう言った。


「はい」

「は〜い!」


 そして、フェリシアーナとエリザリーナ。

 二人からの返事を聞き届けると、レザミリアーナは二人に背を向けて。

 凛々しい後ろ姿を見せながら、王城内の廊下を歩き去って行った。


「本当、あんな男になんて絶対興味無さそうなレザミリアーナお姉様のことを、あそこまで悩ませてる男って一体どんな男なんだろうね〜」

「確かに気にはなるけれど、ルクスくんより魅力ある素敵な男性なんてこの世に存在しないことは確かよ」

「それは同感!フェリシアーナと私は気が合うね〜!じゃあ、これからも気が合う者同士仲良くしようね〜!」


 そう言って、背を向けてこの場を立ち去ろうとするエリザリーナに────


「待ちなさい」


 と、制止するフェリシアーナ。

 エリザリーナが足を止めると、フェリシアーナはエリザリーナと向かい合うよう足を進めながら口を開いて言う。


「今日、エリザリーナ姉様がルクスくんにプロポーズをしたという話は確かに驚いたわ」


 そして、と続けて。


「ルクスくんがいつ自分のプロポーズを受けても大丈夫なように、ルクスくんの目の前で大勢の貴族たちに次の王が生まれたら応援するという雰囲気を作って、ルクスくんの自分が王になることに対する懸念点を少しでも減らしたことも見事だったと言えるわ」


 ────けれど。

 フェリシアーナは、エリザリーナの正面に回って向かい合うと。

 エリザリーナに向けて、力強く言った。


「それが、一体何だと言うのかしら?」

「……」

「今、ルクスくんは私とフローレンスに加えて、エリザリーナ姉様にも婚約をされて頭がいっぱいいっぱいでしょうけれど……結局、少しして落ち着いたら三つ巴になるだけ────」


 と言いかけたフェリシアーナは、いいえ、と続けて。


「むしろ、エリザリーナ姉様はとも言えるわ……私とフローレンスは、もうとっくにルクスくんに婚約の話なんて持ち掛けていたのだから」


 このぐらいで自分のことを出し抜いたつもりなのであれば、勘違いも甚だしい。

 とでも言いたげな、フェリシアーナの言葉に対し。

 エリザリーナは、小さく口角を上げて言う。


「その通りだね、私が二人と比べてルクスと出会うのが遅かったとはいえ、私は確かに出遅れた」


 でもね、と続けて。

 エリザリーナは一度目を閉じると、再び目を開けた時には目を虚ろにして落ち着いた声色で言った。


のは、私じゃなくてむしろフェリシアーナとフローレンスの方だよ」

「っ……?負け惜しみなんて────」

「負け惜しみじゃないよ……実際、二人は私より早くルクスにプロポーズしてるのに、この一手で私にんだから」


 どうしてかわかる?と、聞いてくるエリザリーナ。

 だが、フェリシアーナがそれに返せないでいると、エリザリーナが口を開いて言った。


「その答えは、さっきも言った通り二人が遅すぎること……フローレンスとはあんまり話したことないからその理由まではわからないけど、フェリシアーナに関してはわかるよ────フェリシアーナが遅すぎるのは、以外のことばかり見てるから」

「私が、一番見ていないといけないもの、以外のことばかりを見ている……?」

「うん、それに気付けないと、本当にこのまま私がルクスと結ばれることになるよ────これを教えてあげたのは、妹に対するせめてもの姉としての優しさ」


 続けて、エリザリーナは一度目を閉じると、再度目を開いた時には普段通りの目と明るい声色で言った。


「じゃあね、フェリシアーナ!会うことになると思うけど、その時はよろしくね〜!」


 そう言って、この場から軽い足取りで立ち去って行くエリザリーナ。

 ……エリザリーナの言うという言葉の意味は気にかかったが、今はそれよりも前のエリザリーナの言葉の意味。

 そして、今後エリザリーナに対してどのように対処していくかと言うことを考えながら、ロッドエル伯爵家の屋敷に帰ることにした。

 ────エリザリーナが加わったことで、フェリシアーナとフローレンスのルクスとの婚約を巡る対立は……さらに、激化していくことになる。



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