箱の中から出てきたのは?
アほリ
箱の中から出てきたのは?
「あっ!!こんなとこに?いい箱あるじゃん!!」
野良猫のは、白い大きな箱の側に居る。
そんな野良猫は常に腹ペコだ。
今日も、街中をトボトボと食い物を探し歩く。
しかし、野良猫はどこに行っても、
「汚い!」
「あっちにいけ!」
「しっしっ!」
と人間に悉く追い払われ、
一部の人間でも餌をくれても、それが罠であり実は猫捕り業者だった事もあり、命からがら逃げた時もあった。
「腹減った・・・腹減った・・・休みたい・・・休みたい・・・腹減った・・・腹減った・・・休みたい・・・休みたい・・・腹減った・・・腹減った・・・休みたい・・・休みたい・・・」
と、項垂れてブツブツと呟きながら、ガリガリに痩せた身体に湧いたノミの痒みを堪えながら、人間のめったに来ない裏通りを千鳥足で彷徨った。
「腹減った・・・腹減った・・・休みたい・・・休みたい・・・腹減った・・・腹減った・・・休みたい・・・休みたい・・・腹減った・・・腹減った・・・休みたい・・・休みたい・・・」
野良猫は、何処まで歩いたのだろうか?
「嗚呼、こんなところに・・・ここは天国か・・・虹の橋がかかってるし・・・
丁度良かった。厳しいこの世界から僕は天国に行きたいんだ。
入ってみよう。」
こうして、野良猫は虹の橋がかかった様な飾りがあるこの白い箱の前に居るのである。
「こんなところに、箱を用意するって・・・誰か知らないけど、気が利いてるよね。」
一瞬、野良猫は咎めた。
「このパターンで何度も僕は猫捕りに引っかかったじゃねーか?
今度こそ騙されないぞ?!」
しかし、この箱をじっと見詰めたとたんに突然の本能が騒いだ。
「ここに入れ・・・ここに入れ・・・」
と、衝動的にこの恍惚の白い箱の中へと身体が誘った。
やがて、底が深くて大きな箱の中に野良猫は潜っていった。
「気持ちいい〜〜〜〜〜!!やっぱり箱の中最高!!」
野良猫は、箱の奥底でひと時の至福の時を感じた。
久々の伸び、久々のあくび、久々のうたたね。
すっかり、野良猫はグッスリと眠りこけてしまった。
しゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
しゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
野良猫が寝ている箱の外で、いっぱいのカラフルな風船にヘリウムガスを入れて膨らます音が聞こえていた。
野良猫の入っているこの箱は・・・
この建物はバルーンショップであり、今パーティの飾りに使う風船の束を作って箱に詰めて、パーティ会場に運ぶ準備を店員がしている最中だったのだ。
野良猫は、長きに渡り餌を探して疲れがどっと出て箱の中でグッスリと熟睡してる間、パーティ用の風船ブーケは着々と完成すると、早速箱に・・・野良猫が爆睡している箱の中に詰めて・・・バルーンショップの店員がこの中に猫が寝ているとは知らずに・・・蓋を閉めた。
ガタッ!ガタガタッ!
風船ショップの店員が「何かやけに重いなあ?」とワゴンに、配達先の娘の誕生会をする家に風船ブーケを届ける為に乗せていた時も野良猫は気付かず、風船ブーケの下で熟睡し続けた。
ブロロロロ〜〜〜〜!!
発車したワゴンに載せられた箱の底の野良猫は、夢を見ていた。
野良猫は風船のいっぱい身体に結んで、天国を目指して飛んでいる夢を・・・
何処までも、何処までも、何処までも、何処までも。
眼下には、今までお腹を空かしてトボトボ彷徨っていた街並みが1面に拡がってきた。
あの日、売り物の魚をくすねて店員に追いかけられた魚屋も、
ライバルの他の野良猫と縄張り争いをして負けてしまい、深手の傷を癒やすために身体を横たえた放置廃車の山も、
暴風雨を避ける為に潜り込んだ廃屋も、
そして、猫捕り業者に罠かけられ捕まって命懸けで脱走した街角も、
全部足元に豆粒になっていく。
風船を付けた野良猫はどんどん昇っていく。どんどん。どんどん・・・
「あれ????」
野良猫は目覚めたら、全身に何かがからんでいた。
それは、野良猫が箱の底で眠っているさなかに、上からバルーンショップの店員が入れた風船の紐だった。
「やば・・・身動きが取れない!!」
野良猫はもがいた。
「やばい!!やばい!!やばい!!やばい!!」
野良猫は焦れは焦る程、更に風船の紐が絡みつく。
「やばい!!やばい!!やばい!!やばい!!」
ふうわり・・・
目の前に、大きなゴム風船が目の前に飛び込んできた。
「風船?!ああ、あれは正夢じゃなかった!!僕はこの風船を付けて飛んで天国に行くんだ!!
しっかし!眼の前は暗いなあ・・・
でも、身体に紐が絡んできて 身動き取れないし。
そっか。僕をがんじがらめにして風船で天国に行け!!って事だな。
でも、また眠くなってきた・・・
ここでジタバタ暴れた疲れかなあ?
眠い・・・眠い・・・
野良猫が再び眠りこけるうちに、どうやらこの箱を届ける誕生パーティの家に着いたようだ。
ゴソゴソゴソゴソゴソ・・・
箱が開いた。
真上から、眩しい光りが差し込んできた。
ぼむっ!!ぼむっ!!ぽむっ!!ぼむっ!!と箱からヘリウム入りの風船が飛び出してきた。
「あーーっ!!風船だーーー!!こんなにいっぱい!!」
「良かったね!!お嬢ちゃん!!私からのプレゼントよ!!」
「あれ・・・ママ、箱の中に猫が入ってるよ!!」
「あっ!ホントだ!!風船の紐絡んでるね。この猫。
でも、ずいぶん痩せてるね。」
「ママ!!私、以前から猫飼いたかったんだ!!飼っていい?」
「でも、私、バルーンショップに猫を頼んだ覚えないんだけど?!」
ママは、バルーンショップに問い合わせの電話をした。
「もしもし、はい。風船の中に猫が紛れてたんですけど。
あ、あちらの不注意?お手数かけます。
大丈夫です。私達が責任とってこの猫飼いますから。」
バルーンショップに問い合わせたママは、風船の絡んだ猫を抱く娘に言った。
「飼ってもいいわよ!!但し、ちゃんと最期まで面倒みるのよ!!」
「やったーー!!ママありがとう!!」
娘は風船の紐を猫から取り外すと、シャンプーをして身体のノミを払って、今買ってきたカリカリをあげた。
ムシャムシャとガツガツと頬張る猫は、みるみるうちに風船が膨らむようにガリガリの身体が逞しい猫の身体に蘇った。
「猫さん、今日からの貴方の名前は『キト』よ。」
野良猫から飼い猫になったキトは、娘に抱かれてこの家に運んだ箱と、部屋に飾られた風船達に感謝した。
〜箱の中から出てきたのは?〜
〜fin〜
箱の中から出てきたのは? アほリ @ahori1970
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます