オレンジの箱

snowdrop

 棚の上に、オレンジ色の蓋付きの箱がある。かつて、いただきもののせんべいやお菓子が入っていた空き箱だろう。現在入っているのは古い書類の束。他の人にとっては無用のゴミかもしれない。が、わたしにとっては、かけがえのないものである。

 ――と、書いては見たものの、偉そうに自慢できる代物か。問われると、たしかに大事なものと呼ぶにふさわしくない、と答えるだろう。質屋に持っていったところで売れないし、歴史的価値すらない。こんなものを残しておいても邪魔なだけ。

 そもそも、しまうところがなくて、ちょうど空いていたこの箱に入れて、棚の上に置いたのだ。

 数年ごとに思い出しては引っ張り出し、中身をみては棚に戻してきた。そのうち、新たにみつけたものを入れ、数年前に戸棚の整理をしていたときにみつけたものも収めた。

 いまでは、いっぱいである。

 このままではゴミ同然。

 他人には意味のないものたち。

 捨てられないのは、わたしにとっての特異点だからに他ならない。世界中の人が忘れてしまっても、わたしだけは忘れてはいけないもの。それでいて、とうの昔に忘れてしまったもの。

 読み返してみたところで、へえ、そうだったんだと隣から眺めるような他人事の心境になる。

 だけど、他人事にしてはいけない。

 だから捨てられずにきたのだ。

 歳月の末、こうして集まった書類を眺めることで、以前はわからなかったことが、実際はこういうことが起こったのではないか、と想像の手助けをしてくれるまでになっていた。

 記憶は記録ではない。

 ゆえに、資料は雄弁である。

 形にしようと思ったのは、高校生が参加するカクヨム甲子園の作品を、たくさん読んだからにちがいない。全力で、あふれる才と限りある若さを込めて紡ぎあげる作品群に、強く当てられたせいだ。

 いつかはこの話を形にしようと思い、これまで幾度も挑んでは、満足いくものに仕上げることができなかった。

 うまくいかなかったのは、いろいろなものが足らなかったからだろう。

 箱の中身を元にして紡ぎ上げたものを、現在は推敲している。

 はたして、応募締め切り日までに完成させることができるのだろうか。

 いまは、時間が惜しい。

 

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オレンジの箱 snowdrop @kasumin

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