佐藤太郎と秘密の箱
砂漠の使徒
「佐藤! 私買い物行ってるね!」
「ん? なにかある?」
今日は僕が部屋の掃除を任されていた。
だから、隅々までホコリ一つ残さずきれいにしていたのだが。
ふとベッドの下にモップを差し込んだとき、コツンとなにかにぶつかった。
しゃがんで……というか、床に頭をつけて覗いてみると……。
「箱?」
なにか四角いものがある。
手を伸ばして取ってみる。
「やっぱり……なにかの箱だ」
見た感じ、触った感じも木製かな?
そんなに古びてるわけでもないから、昔からここにあるわけでもないかな。
それはそうか。
だって、先週掃除したときにはなかったはずだし。
「なんの箱だろう?」
くるくると手の中で箱を回す。
案外軽い。
中からは何も音がしないし……なにも入ってない?
「なにか書いてある、な」
箱の正面には文字が彫られていた。
やや雑なので、彫るのに苦労したのが窺える。
「『私の秘密の箱』……か」
シャロールのかな?
僕に心当たりはないから、当然そうなるだろう。
それじゃあ……戻そうかな。
他人の秘密を暴くのはよくない。
「ん?」
よく見ると、さらに下の方に小さく文字が書いてある。
これは彫ってるわけじゃなくて、えんぴつかなにかで書いてそうだ。
「えーと……『見つけたなら開けていいよ』?」
ふふ、彼女らしいや。
きっとこれは見つかること前提の秘密の箱なのかな?
それで、もし僕が気を利かせて開けなかったら困るから、こんな注意書きを書いたんだろうな。
しょうがない、それなら見るしかない。
「中身は……なんだろう」
開けてみる前に想像する。
見つかると困るものは入ってないだろうし……。
かといって、わざわざ隠してたんだから特別なものではあるかな?
彼女はこういうお遊びが好きだから、突然プレゼントをくれることがある。
今回もそれかな?
「では……」
蓋に力を入れると、すんなりと開いた。
いったい中には……。
「あ、あれ?」
箱の中身は……。
「あーーーー!!!」
僕が困惑していると、背後から愛する彼女の大きな叫び声が聞こえた。
慌てて振り向くと、彼女は心底驚いている。
「それ、見ちゃったの!?」
「え、あ……その……」
『見ちゃったの?!』と勢いよく問われると、仮に『開けていい』と書かれていた箱でも罪悪感が生まれる。
なんと返そうか考えて、言葉に詰まる。
「じゃあ、中にあったあんなものやこんなものも見られたんだ……! 私、恥ずかしくて生きていけない……!!」
「え、ええ……!? いや、中には……。ちょっ、シャロール!?」
言い訳する前に、両手で顔を覆っている彼女を慰めに行く。
「ごめん、シャロール。僕が……」
悪かった。
彼女の肩を優しく掴み、謝罪の言葉を述べようとした。
そのときだ。
「んっ……?!」
彼女は突然身を乗り出し、すぐ側に来ていた僕と唇を重ねた。
突然のことに驚いて、頭が真っ白になる。
そうこうしている内に彼女はゆっくりと離れて、こう告げた。
「これが箱の中身だよ?」
(了)
佐藤太郎と秘密の箱 砂漠の使徒 @461kuma
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