オルゴールは記憶と共に

蒼田

思い出オルゴール

 カラッとした暑さを感じながら俺達は家の掃除をしている。

 定期的に掃除をしているおかげかそこまで処分するものはない。

 しかし次の休みに十八で働きに出て行った息子が嫁を連れて帰るというのだ。

 いつも通り、と言うわけにはいかないだろう。


「……ん? 大体掃除し終えただろ? 」


 掃除機の音が消えたと思うと妻が掃除機を持ち上げ移動を始めていた。


「あの子の部屋を掃除してあげないと」

「止めてあげろ」


 俺の言葉を聞いて妻が眉を八の字にする。

 息子の部屋は大分前に妻が片付けている。それに定期的に掃除をしている。

 働きに出て行ったとはいえあの部屋は息子の部屋。

 自分の部屋に母親の手が入るというのは、気恥ずかしい以前に無条件でイラっと来るものだ。


「埃をとるだけですよ」

「……本当に程々にしてやれよ」


 妻は「わかっていますって」と言いながら掃除機を持ち上げ二階へ行く。

 俺は一階の片付けを終わらせた。


 ★


「あの子の部屋からこんなものが出てきたのですが」


 やめてやれと言ったのに、と言う言葉を飲み込み二階から降りてきた妻の手を見る。


「箱? 」


 妻の手には長方形の箱が一つ。

 箱の表面には綺麗な絵が描かれている。木製の木箱は何も着色されていないのか木の素材そのものの色。この箱は上下開くようで正面には金具のようなもので軽くとめられていた。


「昔家族で海外に行った時に買ったオルゴールのようで」


 と妻が金具をずらしパカっと箱を開けながら言う。

 勝手に開けて興られても知らんぞ、と思いながら顎に手をやる。


「懐かしいな。確かドイツに行った時買ったものか」

「ええ。お土産に同じ物をもう一つ買ったのを思い出しますね」

「これからはその子が娘になるのか。不思議な縁だな」


 いつの間にか妻がオルゴールのゼンマイを回している。

 ドイツに行った時の思い出に加えて、懐かしい記憶が音と共に流れていく。

 優しいオルゴールの音に心を落ち着かせながらも俺達は新しい家族を迎え入れる準備を再開した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オルゴールは記憶と共に 蒼田 @souda0011

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ