あ!こんなところに小さな箱があります。可愛いですね。

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可愛い深淵

 あ! こんなところに小さな箱があります。可愛いですね。


「これ……なんだろ。昨日はなかったのに」


 そんな可愛い箱に惹かれて、一人の少女がやってきましたよ。

 リュックを背負っているのと、服装から見て取れるように学校帰りの高校生のようです。額には汗が流れ、いかにも部活帰りといった雰囲気。青春してて可愛いですね。真夏だというのに頑張ってて偉いです。


「ただの箱、なのかな。見た目はなんか可愛いラッピングしてあるけど」


 ピンクを基調に、ハートマークやクマなどの可愛らしい動物のぬいぐるみの模様がたくさんあしらわれた箱。やっぱり女の子は可愛いものが大好きなんですね。

 それに可愛いものを前にしてなのか、目は獲物を狩るハンターのようになっています。本当に興味津々なのがまるわかりです。


「これ触っていいやつかな……結構おっきいし、捨てられたわけじゃなさそう」


 じりじりと距離を詰め、ゆっくりと警戒を露わにした様子で手を伸ばしています。

 しかしなるほど、面白い推測ですね。さて、そこからどういう行動に出るのかとても楽しみです。


 ――彼女はしばらく手を伸ばしては引っ込めを繰り返し、かぶりを振っては顎に手を当て考える素振りを見せていました。まるでなにかに取り憑かれたかのように、数分間ずっと繰り返していたのです。


 するとそのとき。ふぅ、と深呼吸をしてそっと呟きました。



 もし先程までの百面相を見ていた人がいるならば強烈な違和感を覚えるような淋しげな笑みを浮かべ、そのまま箱へと手を触れました。

 そのまま、ハートマークやクマなどの可愛らしい動物のぬいぐるみの模様が描かれたラッピングを、無心で剥がしていきます。


「やっと出てきた……」


 ついに見えたその箱は、真っ黒で模様なんかが一切ないようなものでした。それはチェストのように開くもので、重苦しい雰囲気が漂っています。

 まっさらな箱には黒い取っ手が付いていて、そこから箱は開けられるのです。


「中……中を……!」


 だんだんと必死になってきました。やっぱり可愛いものはすべてを魅了するのですね。


 血走った目で箱を乱暴に開くと、そこは生暖かい空間でした。しかし一つ不思議なことがあります。それはことです。


「……えっ?」


 素っ頓狂な顔をしていますがもう遅いです。すでにワタシの中に入ってしまったのですから。


「えっ……ちょっとなにこれ――!?」


 白い腕を這うように長い触手が伸びていきます。それは彼女の身体の半分を包み込むと、動きを止めました。


「ぬめぬめしててきもちわるい……なにこれ……なんかへんなきもちに……」


 呂律が回らなくなってきたようですね。良かった良かった。さてと――


「あれ……引きずり込まれ……や、やめ――!」


 いただきます。


 ごっくん。

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