魍魎の匣と多重人格探偵サイコと私

笹 慎

「ほぅ」の匣と千鶴子の冷蔵庫

 千鶴子の冷蔵庫フィギュアが発売されるというネットニュース記事を数ヶ月前見かけた。

*多重人格探偵サイコ『箱入り千鶴子』造形:石長櫻子氏(植物少女園)


 千鶴子って誰やねんって人に説明すると、大塚英志氏が原作、田島昭宇氏が作画を手がけた漫画『多重人格探偵サイコ』にて犯罪に巻き込まれて大変なことになってしまった主人公(の中にあるたくさんの人格のうちのひとり)の恋人である。


 どんな大変なことになったか知りたい勇者は、Google先生で検索してみてほしいわけだが、ショッキングな画像が出てくると思うので簡単に説明すると、彼女は問題となったシーンで生きたまま冷蔵庫に入れらたわけである。どうやって入っていたかはご想像にお任せする。


 該当号発売当初、当然ながら『多重人格探偵サイコ』は物議を醸し過ぎて絶版の危機になった。


 なんてゆーか、田島昭宇氏のモードで美麗な絵も相まって、こう……変な性癖を目覚めさせられた若者が多かった気がする。このような数十年の時を経て、高額フィギュア化(定価48,000円)されて予約完売してしまうほどに甘美なシーンだった。


 KAC2024第三回のお題「箱」を見た時、まず思い出したにはこの千鶴子の冷蔵庫フィギュアだったわけだが、もう一つ思い出したのは京極夏彦先生の名作『魍魎の匣』だった。ほぅ。


 そう、思わず読み終わったワナビは自作に「ほぅ」と使いたくなってしまうこと間違いなしの名作だ。小説のネタバレになるので「ほぅの匣」と呼ぼう。「ほぅの匣」の中もどうやって何が入っていたかはご想像にお任せする。名作なので、まだの方は読むのが一番良いと思う。


 で、ふと気になったのだ。どっちが先なんだろうと。調べてみた。


 1995年1月発売 『魍魎の匣』

 1997年2月号連載開始 『多重人格探偵サイコ』


 意外にも二年も「ほぅの匣」の方が発表が早かった。とはいえ、漫画の準備期間は数年単位だったりもするから『魍魎の匣』に影響を受けたのか、受けてないのはわからない。


 記憶では同時期くらいだった気がしていたけれど、二年のひらきがあったのは意外だ。


 まぁ、ただ単に両方とも私が読んだのが同時期だっただけかもしれない。中学二年生のあの時期は『新世紀エヴァンゲリオン』もあり、サブカルに人生狂わされた感が強い。


 1990年代は不況のせいか、規制くそくらえというか挑戦的なものすごく尖った作品が多かった気がする。


 ガンダムWの主人公も自爆をいとわない少年兵だった(今ならテロリストと表現されるだろうけど)し、綾波レイも「死んでも代わりはいるもの」とのたまう自爆OKヒロインだった。


 これらのきっかけはやはり映画『羊たちの沈黙』が1991年公開(原作は1988年出版)なのだろうか。

 小説から漫画からドラマからとにかく異常犯罪ものが爆発的に増えたことは覚えている。思い返しても、やはり1990年代は『猟奇ものの名作』の時代だなぁと感じるわけで。


 しかも、日本の場合ただ単に「猟奇」というよりも、そこにジャパニーズコミック的なポップさがあり、『金田一少年の事件簿』のドラマ版から始まり『ケイゾク』『池袋ウエストゲートパーク』『TRICK』と次々に傑作ドラマを手がけることになる堤幸彦監督の登場で、漫画だけにとどまらず映像面でも「ポップで猟奇」な作品群は先鋭化していくことになる。


 この『多重人格探偵サイコ』から脈々と続く「かなり猟奇的なのに、猟奇的すぎて笑ってしまう」という90年代後半から00年代前半の不謹慎サブカルチャーの躍進は特に目覚ましかった。


 日本には犯罪が少ない。治安の悪い場所は局所的であり、その地域でさえ諸外国に比べれば治安が良いといえるレベルだ。


 つまるところ、日本人にとって「犯罪」の中でも猟奇的な犯罪は「リアリティ」がない創作の中の話であり、純粋に楽しめるエンターテインメントとしての要素が強いのだろうと言える。


 正直なところ、「箱」と聞いて思い出し書き始めただけで、特段オチを用意していない本エッセイであり、申し訳ないがこの辺でお開きにしたいと思う。



(2024/3/13 追記)

 この雑エッセイを記憶だよりで書いていたのだけれど、大きな記憶違いに気がつきました。

 

 千鶴子が入ってたの……冷蔵庫やない……(致命的w)


 発泡スチロールの箱でした。クール便ってだけでした。


 心よりお詫び申し上げます。

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魍魎の匣と多重人格探偵サイコと私 笹 慎 @sasa_makoto_2022

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