ひみつの内見

あまたろう

本編

「そういえば先輩、ついこの間なんですが、変な予約があったんです」


 この不動産屋に入社して半年の後輩が突然話しかけてきたが、そういえばと言われても何も言っていない。


「物件を探しているということで、内見の予約があったんですけどね」


 うん、と言って次を促す。


「一戸建てで、周りにほかの家ができるだけ建っていないところがいいと」

「ふむ」

「それで、駅が近いとか人気の校区だとかはどうでもいいと」

「怪しいけど、そこまではおかしな注文じゃないな」

「ここまではそうなんですが、そのほかにも地下に広いシェルターがあるのは必須だと」

「少し雲行きが怪しくなってきたな」

「で、周りの治安はなるべく悪い方がいいと」

「一気に暗雲が濃くなったな」


 で、調べたんですよ、と後輩が資料を広げる。


「地下シェルターは、完全に地下に埋まっている前提であれば居住や老人ホームに類するものの用途において延床面積の3分の1程度ぐらいまでは建築面積には算入しないということだそうで、それだけ広いシェルターを作るとなるとそれなりに広い家が必要になりますよ、と」

「あんまり地下シェルターの広さとかは調べてなかったな」


「で、要望の続きなんですが、地下シェルターには地上からエレベーターで直結したいと」

「ん? 建築法的にそんなことできたっけ」

「場所によってはできないこともなさそうですけど、かなり限定されると思います」

「ほうほう」

「いわく、地下シェルターには自動ドアでプシュッと入るのが必須だと」

「特殊な要望だな……」


 ほかにも、必須ではないが希望として、シェルターの内壁は金属製がいいだとか、壁に大きなモニターを設置できるスペースが欲しいだとか、大型のコンピューターを入れ込みたいから電源は多めに割り当ててほしいとか、外部からだけではなく内部からの少々の衝撃にも耐えうる構造がいいとか、まあそのあたりはどうにでもなるよね、というものが並べられた。

 バイクや車、戦闘機なども地下に収納したいと言われたが、それはできないから庭にでも収納してくださいとお願いしたそうだ。


 ……ん?

 いま何を収納すると言った?


「で、そこまで予算は多くないのでできればこれだけの要望を満たす中古の物件が欲しいと言われたんですよ」

「そら大変だな。で、あったのか」


 ふふん、とドヤ顔になる後輩。


「見つけたんですよ! すごいですよね!」


 ……まあ、確かにすごいな。


「で、依頼者を連れて内見に行ったんです」

「……そうとう怪しい依頼だが、一人で大丈夫だったのか」

「私護身術習ってますから」

「ニワカがいちばん危ない気がするが」

「まあ、結果的に大丈夫でした。……でも確かに今考えると怖いので、今度からは先輩ついてきてくださいね」

「空いてたらな」


 で、依頼者の方もたいそう気に入ってくれて、と続ける。


「3人だったんですが、お互いのことをレッドだのイエローだのって色で呼び合う変な方たちだったんです」

「ちょっとまて」


 いままでの要望と戦闘機……やっぱ戦闘機って言ってたよな、ってことは……。


「で、かなりご満足して帰られたのでてっきり契約取れると思ったんですけどね」

「ダメだったのか」

「不動産屋に出回ってる物件なんか秘密基地にならんだろと上司に言われたということで、断られちゃいました」


 秘密基地って言ってる。


「あとついでに、私をサポートヒロイン役にスカウトしたいとか訳のわからんことを言われましたので丁重にお断りしました」


(おわり)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひみつの内見 あまたろう @amataro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ