吊ってる女

尾八原ジュージ

吊ってる女

 ねえ、ちょっと見たぁ? こうちゃん、すごい雰囲気変わってない? いやいや、彼氏と別れたからとか、そんなレベルじゃないって。

 てかさぁ、あたしこうちゃんが変わった原因知ってるかもなんだけど。聞いてくれる?


 こうちゃんが彼氏と別れたときさぁ、同棲してたとこ引き払って、引っ越すってことになったじゃない。そのときあたし、アパート探しに付き合ったんよね。

 ほら、こうちゃんって初対面の人ちょっと苦手じゃん。アパート探しにいくと、不動産会社の営業さんとあちこち行かなきゃならないでしょ? それがイヤだから、ミキねえ一緒に来てよ〜って。

 で、行ったわけよ。

 四箇所くらいあちこち見たっけなぁ。そんで最後の一箇所、ここはちょっと古いけどいいとこですよ〜って、営業さんが連れてってくれたの。

 まぁ条件は確かによかった。駅から近いし、周りにスーパーとかコンビニとかあって。建物は古いけど、でもそんな気になるほどでもないんだよね。ここ今までの中で一番いいんじゃない? って、こうちゃんと話しながら部屋に入ったの。

 そしたらそこさぁ、廊下とかなくて、玄関入ったらいきなり洋室になってんのよ。こっちに台所があって、こっちに窓があって、ロフトがついてんの。

 そのロフトの手すりにロープかけて、女が首吊ってんのよ。

 ぎょっとしたけど、不動産会社のひともこうちゃんも、どうもその女が見えてないんだよね。ぶらぶら揺れてるすぐ横を通りながら、結構いいでしょ〜なんて言ってんの。条件のわりには家賃安いですよね、なんて。

 そこで女が首吊ってるから安いんだろって言おうと思ったんだけど、怖くてさぁ、言えないのよ。あたしがなにか言おうとしたら、俯いて吊ってた女がぱっと顔上げて、あたしのことじーっと睨みつけてきたの。

 もうあたし、内見が終わるまで玄関入ってすぐのところに縮こまってたよね。

 こうちゃんがこの部屋に決めたら困るなぁって思ってたんだけど……案の定決めちゃった。いやさ、部屋出た後で止めたんだよ? でも全然聞かないの。ここがいい、絶対ここって営業さん急かして、結局その日のうちに契約しちゃった。

 そのせいだと思うんだよね。こうちゃんが変わったの。

 だってこうちゃん、あの女そっくりになってきてるもん。髪伸ばしてさぁ、服の趣味も変わったよね。なんか声も違くない? 前あんなんじゃなかったよね? それにさぁ……あっ。


 やば。こうちゃん、こっち見てる。

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