本編 ~でぃすとぴあ~
正直物件の状態などどうでもいいのだ。仮にも冒険者の端くれ、雨風さえ凌げればどうとでもなる。大遠征時はテントを張るしクランの共同宿舎もある、どうせ月に一度帰ればいい方だ。
其れでも部隊長の役割を貰ってしまい、其れが宿無しだと新人に示しが付かんとリーダーに言われてしまった。
確かに奴の様に偉丈夫なら根無し草では格好付かんが、俺の様な不細工で痩せぎすな男が気にする必要はないと思うがな、結婚願望がない訳ではないが。
ギルドのに相談し幾つかの住宅の内見をするがパッとしない。広過ぎるというか立派過ぎるというか……金は有り余ってるのだがな。
そんな俺の様子をどこぞで覗いていたのか、小ずるそうな男が手をすり寄せて近付いてきた。いつもならすげなく追い払うが……
「旦那の様な人にぴったしの道具があるんですが」
と差し出されたのは……5立方cm程の一つの小さな箱だった。
曰く異国の魔導士が生み出したマジックバッグの様な物で、異空間の座標を固定し床と壁・天井を作り及び家具を固定する。
異空間なので雨風や自然災害の問題もないし、無論マジックバッグの様に限られた人物だけが使う事が出来る。ちょっとやそこらの衝撃で壊れる心配もない。
冒険等に持っていけば湿気臭い迷宮の一角で寝る事も、灼熱の火山地帯で寝惚けて溶岩に転がり落ちる心配もない。正に夢のような道具だ。
値段はちょいとしたが俺は迷わず購入した。確かにこいつはいい。
まだ開発中という事で大規模な宣伝はしていないようだが、これが量産化の暁には住宅事情も一変するだろう。
迷宮に潜る時も先程の様な利点の他、怪我人を収納して治療も出来るだろうし、重装備の戦士を戦地迄体力温存させつつ運ぶ事も出来る、まさに革命的発明だ……。
俺は其れを俺のクラン及び、他クランにも積極的に宣伝した。今迄物件の状態などどうでもいいと言っていたのが嘘の様に。
他の冒険者にも大好評で、注文はどしどし舞い込んだ。俺も、俺に紹介した男も、今では紹介料等でちょっとした小金持ちだ。
俺に家を買えといったリーダーも、立派だった家を手放してこの箱を幾つも購入していた……其の日の気分で内装の違う家に引っ越すらしい。
正に誰も困らぬWIN-WINかと思われたが……そうそう美味い話がある訳じゃない。
まず固定資産税という物が無くなった為、王族貴族共が反発の声を上げた。家を建てる職人の需要・土地の整地需要が無くなり何百何千人もが職を失った。物を買うのにも店という目印が無くなり、商人その者を探し出すのに苦労した。家を購入及び維持する為に働くというモチベーションが薄くなり、滅多に人に会わなくなった御蔭で自分を美化させる必要もなくなり、また季節昼夜問わず快適な空間がある為被服文化も衰退した。また危険なモンスターもこの箱を投げつけ無理やり異空間に入れる事で危険なく狩る事が出来、食料にも困る事が無くなって(植物モンスターもいる)人々の勤労意欲というものが減衰した。
……俺も気が付いた時に後悔したがもう遅い。かくしてこの世界は風化した家だったものが所々に点在する、有史以前の世界に戻ろうとしている……。
住宅の内見が間に合わなかった…… あるまん @aruman00
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