エピローグ

 時の流れは早いもので、四月になった。

 俺は晴れやかな気持ちで、高三最初の登校日を迎えていた。


「おはよ。なっくん」


「遅いですよ、ナツ先輩」


 玄関を出ると、俺はすぐ二人の姿を見つけた。

 校内でも有数の美少女たる美鶴と紬ちゃん。俺の幼馴染だ。


「ごめん、ちょっと寝坊しちゃってさ」


 困ったように頬を描く俺。

 俺は二人に挟まれながら、横並びで通学路に就く。


「また夜更かしですか。そんな生活してたら肌荒れますよ」


「でもなっくんって肌綺麗だよね。ホントに特にケアしてないの?」


「何もしてない。ニキビもできた覚えがないな」


「「何それズルい……」」


 ジトッと半開きの目で睨まられる。


 信号に捕まり立ち止まると、美鶴がスッと俺の首元に手を伸ばしてきた。


「あ、ネクタイ曲がってる。直したげるからこっち向いて」


「ああ、サンキュ」


 美鶴側に身体を向けると、すかさず紬ちゃんが割って入ってくる。


「おっと、それならウチが直しますよ。お姉ちゃん不器用だし」


「大丈夫。このくらい私でも出来るから」


「ボタン取れたらウチに縫わせてるお姉ちゃんが言うんだ?」


「それは紬に家庭科スキルを磨く機会を与えてるだけ。やろうと思えばできるし」


 どっちが俺のネクタイを結び直すかで言い合う両名。

 ギスギスした感じはなくなったが、口争いは絶えない。でも思えば、昔からずっとこんな感じだ。子供の頃、どっちが俺のお嫁さんになるかでえらい喧嘩してたし……。


 そういやあの時、俺はどっちを選んだっけ。まあいいか。


「えっと、自分でやるよ」


 俺はサッと二人から距離を取る。

 不満そう口を膨らませてくるが、無理に深追いはしてこない。


 と、偶然通りかかった子と肩がぶつかった。


「っぃた」


「あ、ごめん。大丈夫?」


 華奢な体躯をした女の子。ウチの制服を来ている。

 彼女は小さく整った顔で俺を見上げると、俺の首元に手を伸ばし淡々とネクタイを結び直してくる。


「……完璧」


「あ、ありがと」


 あまりに突然の出来事に呆然とする俺。


「これから同じ学校……なので……よろしく、です。夏樹先輩」


「どうして俺の名前……」


「今年中に、契約……させてみせます」


 弱々しく、けれどはっきりと彼女は宣言してきた。

 信号が切り替わり、スタスタとひと足先に学校に向かっていく。


 初めて会った時と格好がまるで違うから気づかなかったが、久美子ちゃんだった。

 厨二病は卒業したのか? いや契約とか言ってたし……てかそれより、同じ学校? 


 唖然と彼女を目で追っていると、ジッと鋭利な視線を背後から感じた。


「ねぇお姉ちゃん見てた? ナツ先輩、めっちゃ鼻の下伸ばしてたよ」


「ほんとね。あーやだやだ。私たちがいながらまだ欲張るとか」


「お、お前らな!」


 美鶴と紬ちゃんは俺を挟むように位置を取る。


「朝っぱらからデレデレしてないでよね、なっくん」


「し、してないから」


「ウチ達に黙って誰かと付き合うのはダメですからね。幼馴染の厳正な審査が入りますから」


「うわ、めんどくさ」


 俺は苦く笑いながら、それでいてこの瞬間を尊く感じていた。


 この先、どうなるかはわからない。

 様々な気持ちの変化を経て、幼馴染を続けられなくなるかもしれないし、案外このままの関係が末長く続くかもしれない。どれが正解で不正解かを見定めることはできないし、そもそも間違いは存在しないと思う。


 まぁせいぜい、幼馴染の姉妹がギスギスしない程度には気をつけていきたいな。


【完】


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 最後までお読みいただきありがとうございました。

 よかったら評価をお願いしますm(_ _)m


 次は甘いラブコメでも書こうかなとなんとなく思ってます。新作投稿したらチェックしてもらえると嬉しいです!

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幼馴染に恋愛経験ないことを馬鹿にされたので、幼馴染の妹と付き合いだしたらギスギスし始めた件 ヨルノソラ/朝陽千早 @jagyj

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