ささくれ

UD

話さなければ良かった。

 僕にはもったいない。こんなに美しくて楽しい人が僕のことを気に入ってくれて、お話ができるようになって。今日なんて僕の家で食事をしようだなんて。

 何か楽しい話題をしないと。


「……って言う奴がいましてね。僕と同い年くらいなのに、家の物で作ったおかしな格好であの公園にやってくるんですよ。あいつ、まあ僕のファン、というか僕の作品になりきる? 頭のおかしいやつなんですよ、笑えるでしょ?」


 空白。


「えっと、だめでした? そうですよね、面白くないですよねぇ、あんなやつの話なんて」


 空白。


「あの、ヨーコさん……」


「コータと言います。コータはね、生まれた時本当に可愛い子で。私とっても嬉しかったんです、弟ができたのが。それで、お母さんがやってるみたいに私も抱っこしたくてしたくて」

「え?」

「で、お母さんがごはんを作ってたんです。二階で寝てるコータが泣き出して。私が抱っこしなきゃって、お母さんみたいに、お姉ちゃんの私がコータを抱っこしてお母さんのところに連れて行ってあげる、って思ったんですよ」

「あの、ヨーコさん」

「私、4歳で、階段の昇り降りもおぼつかないのに。コータを抱っこして階段を降りたんです」


「ヨーコさん、あの、これって」


「でね、あと少しだったんですけど、やっぱりちゃんと降りられなくて。私、手すりを持ったんです、両手で」


「……」


「ゴンッ。ゴンッて。今も、耳に残ってます。コータの柔らかい身体が転がって。だから、だからコータがああなったのは」


「ヨーコさん」


「ふふふ。最近、コータはとっても楽しそうだったのね。家にある鍋とか使って鎧を作ったり。私、それ手伝わされて。ふふふ。いいの、そう。おかしいよね。だってコータは大人だもん、もう大人なんだから。そう、作家の先生の言う通り、あの子はちゃんと大人にならないとなの。お願い。もう、コータにお話を聞かせたりしないで。もう、私達の前に現れないで」


 これは、私のささくれ。


(完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ささくれ UD @UdAsato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

★115 SF 完結済 1話