第3話 超次元マンション
「その、超次元内見っていうの? 俺には心当たりがないんだけど?」
俺は恐る恐る、パンダのササクレーにそう尋ねる。
ササクレーは「はて?」と首を傾げる。
「斎藤虎次郎様で間違いありませんね? 個人情報の登録と該当ナンバーが登録されております。それも十年前にです」
「十年前ぇ?」
本当に心辺りがない。第一、十年前と言えば俺はまだ小学生だ。
「どうやら代理登録のようです。登録されたのは、斎藤四之助様」
「親父じゃねえか」
ササクレーの口にした名前に俺は驚いた。もう何年も会っていない俺の父親の名前だ。俺が小学校に上がるか上がらないかくらいの頃に、俺の父親と母親は離婚して、それからずっと会っていない。どこで何をしているのかも知れないが、そんな親父が俺をこの……超次元内見? に登録したって?
「どうやら心当たりがあるようですね。では問題ありません。このまま超次元内見を続けます」
「待て待て。俺は納得してないが」
「キャンセルは受け付けておりません」
「そんな横暴な」
ササクレーは俺の言葉を無視して、満点の星空のもと、ずんずんと荒野を進んでいく。
謎のパンダをぽかんと見つめる俺の肩を、俺にトリと名乗ったフクロウがその手(翼?)で俺の肩をぽんぽんと叩いた。
「まあまあ虎次郎さん、超次元内見に招待されるというだけで、この多元宇宙では最大の幸福ですよ。ここはひとつ、だまされたと思ってついてきては?」
トリはそう言うが、そもそも俺にはこいつらについていくしか選択肢がない。見覚えのない、どこまでも続いているかのように見える荒野。こんなところに一人置き去りにされてしまっても、帰れやしない。
「そうか。そうだな。しょうがない」
俺はパンパンと自分の頬を両手で叩いた。ええいままよ。嘆いている場合ではない。今嘆いて置いていかれれば、それこそ一人死ぬまで延々と泣き続けることになるかもしれない。
俺はササクレーの後を、フクロウのトリ、そしてロボットのボクシーと一緒についていくことにした。
「結局、超次元内見ってのは何なんだ?」
「それはですね」
と、俺の疑問にボクシーが答えた。
「超次元内見、それはカ・クヨーム不動産が誇る最高のサービス。全宇宙、全次元より己に最も相応しい部屋を提供する超次元マンション、その一室を見つけるための内見です。超次元マンションには実に45万を超える部屋が用意されており、その部屋の数は加速度的に増え続けております」
「45万!?」
なんとも途方もない数だ。そんな数の部屋が用意されていれば、確かに自分に相応しい部屋の一つや二つ、ありそうなものなのか?
「その超次元マンションってのは、この広い荒野のどこにあるんだよ」
俺がそういうと、先頭を歩くササクレーが振り向いた。
「虎次郎様。超次元マンションは今、まさにここでございます。下をご覧ください」
「下?」
俺はササクレーに言われるがまま、下を向いた。するとどうだろう。先ほどまでは荒野にしか見えなかった地面がみるみると透けていく。
そこにはいくつもの扉があった。いくつもの穴があった。いくつもの窓があった。
「お客様の11次元視覚能力に合わせて少々見える形は異なりますが、どうですか? これぞ、わが社カ・クヨームが誇る超次元マンション!」
ササクレーは誇らしげに、そして楽しそうに高らかにそう言った。
ビューティフル・ワンダー・NAIKEN 宮塚恵一 @miyaduka3rd
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