日記ブログ

かきはらともえ

投稿者:××× 201×年×月×日




 これは別に怖い話なんかじゃないです。

 その部屋が事故物件だったとか、ストーカーに遭ったとかではありません。

 これは都会に出てきた友達の話です。


 社会人一年目の夏前です。専門学校時代の友達の家に遊びに行くことになりました。わたしは春頃にこちらの■■■周辺に引っ越してきていたけれど、友達は専門学校の卒業までに内定を決めず、そのままアルバイトを続行するという形で■■県に残っていました。

 それが、このゴールデンウィーク明けのタイミングで就職が決定したらしいんです。

 それでこちらまで引っ越してきたので、専門学校時代によく集まっていた仲間で遊ぼうということになったんです。

 このまま『友達』呼びだけではややこしいので、ここではひとまず、その友達をYちゃんと呼ぶことにします。そのほかの友達に関しては出てくればその都度に紹介します。

 金曜日の仕事終わりに一度帰宅して、用意していた荷物を持ってその友達の新居に向かうことにしました。仕事が終わってすぐにグループチャットのほうを見るとほかのメンバーは既に揃っているみたいでした。

 ■■■周辺から最寄りの駅から地下鉄を経由して移動することになります。それから十分ほど歩くので、あまり駅が近いという立地ではありません。

 ■■■■■■の辺りは■■県に比べればぜんぜん都会ですが、中心から外れています。少し喧騒から外れた場所にあるそのマンションまでやってきました。

 お世辞にもきれいとは言えない玄関でした。ティッシュやチラシに吸殻などが普通に床に捨てられてあります。

 それよりもわたしが注目したのはガラス張りの扉が一枚でした。わたしとしてはそういうのが不安になります。わたしもさすがにオートロックのところには住んでいませんけれど、ガラス戸は引けば簡単に開いて、そのままエレベーターまですぐです。怖くないのでしょうか。のちにYちゃんにはこういわれました。

「オートロックとかにしてもさあ。ほかの部屋番号を打ち込んで『鍵を忘れて閉め出されちゃったんで開けてもらっていいですか?』みたいなこと言ったら開けちゃうでしょ。そりゃあ不審に思われるかもしれないけどさ。そんなのって後の祭りじゃない? これくらい不安があるほうが当人の防犯意識も高くなるからいいのよ」

 なんて言っていました。一理あるなあとは思いましたが、世の中は理屈じゃありません。

 ボタンを押すとエレベーターはすぐ降りてきました。扉の開閉が早いエレベーターは狭くて無機質でした。機械の駆動音がよく聞こえる。がたがたと揺れている。三階で扉が開いて、言われていた部屋の前に来ました。廊下は狭くて小さい蛍光灯ひとつが照らしています。街の灯りが入ってくるはずの廊下の窓は小さく、この周辺が喧騒から離れていることもあって薄暗い。

 ぴんぽーん。

 インターフォンを鳴らす。ばたばたとドアの向こうから音が聞こえて、ドアが明けられた。

「遅かったわね」

 それは先に合流しているBという友達でした。Bの顔を見ると少し安心しました。

 短い廊下を抜けるとワンルームの部屋でした。ベッドやテレビがあって、小さな折り畳みテーブルを囲っていました。

「待ってたよ」

 Yがゆったりとした口ぶりでそう言いました。Yの手には缶チューハイが握られていて、テーブルや床には既に何本か転がっていました。

 既にKもいて、スマートフォンを触っていました。

 専門学校のいつもの顔ぶれが揃ったことに安心しました。

「待ってたのはわたしたちだよ、Y。てっきり■■で骨を埋めるとばかり思ってたよ」

「地元のほうがいいんだけどねー。一度は都会っていうものを経験しておかないともったいないでしょう」

 そう言って、小さな折り畳みテーブルの上にある缶チューハイをこちらに渡してきました。普段はあまり飲まないけれども、まあ、付き合い程度には嗜んでいます。手渡されたお酒は好きな味ではなかったけれど、とても美味しかった。

 好きな友達と一緒なら大体は楽しいものです。


 談笑をしているうちに眠ってしまったみたいで、ふと気がついたら床で眠っていました。周りから聞こえていた友達の笑い声は既に止んでいました。電気も消えていて部屋は暗いです。ベッドではYとKが眠っていて、Bも床で眠っています。わたしの上にはタオルケットがかけられていました。

 酔いが醒めたという感じの感覚。部屋の中を見る。

 なんだろう、違和感みたいなものがある。

 部屋は普通だけど、なんというのか、Yっぽくないって感じた。具体的にどうかわからないけど、使われている家具や家電などが『こういうの好きだったのかなあ?』って感じるデザインをしている。


 外の空気を吸いたい。そう思ったので、身体を起こしてベランダに出ました。少し蒸し暑い空気でした。あまり明るくなくて、背の低いビルが並んでいました。それから少しして部屋に戻って、さっきと同じ場所に横になりました。


 翌日を迎えて、お昼前くらいに『そろそろお暇しましょうか』ということで解散することになった。帰りの電車では、途中までBやKと一緒でした。

「Y、ちょっとやばいわね」

 Bがそう言った。

「やばい?」

「気づかなかった? Yの部屋にあった家電とか台所用品とか、そういうの」

「うーん。わかんない、どうしたの?」

「あれ、■■■■■の商品よ」


 それからBとKの話を聞いて知りました。Yの部屋にあったものは、マルチ商法に関係する製品がほとんどだった。それも最近になって流行っているものから有名なものまで。■■という田舎から出てきたYは都会の人間によって搾取されているのだとわかりました。

 KやBはそれらを薦められるんじゃないかと部屋に這入ってから危惧していたみたいです。そういうことは起きなかったみたいですが、それから少しYとは距離を置くことにしました。




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