第20話 納棺師になりたい
映画館にやって来た。
そして俺はガラス越しに背後の存在を確認する。
背後の人間はキョロキョロ周りを見渡しながら付いて来ている。
俺はその姿に気付いてないふりをしてから横の双海に聞く。
「どうしたもんかね」
とだ。
すると双海は口をへの字にしてから「どうしたものですかね」と言葉を発する。
そんな言葉を聞きながら俺達はチケット売り場にやって来る。
やはり背後の人物も同じようなチケットを購入した。
海で間違いないだろう。
「...でも正直嬉しいですよ」
「...何がだ?」
「多分...海は私を心配して来たんでしょう。だったら...それは何だか嬉しいです」
「...アイツも変わったな」
浮気した事が良いとは限らない。
だがきっと浮気した事がそれなりにアイツにとってはスパイスになった部分もあったのだろう。
そう考えながら俺達は気付いてないふりをしてからそのままポップコーンなどを買ってから1時間半鑑賞した。
何というかとても映画であった。
☆
「この後...どうします?」
そんな事を双海から言われた。
俺はその言葉にゴミを片してから映画館から出て来ながら悩む。
それから取り敢えず歩く。
すると背後から「お姉さん」と声がした。
見るとサングラスのそのパーカー人間がナンパされていた。
「...」
俺は助ける義理は無いと思う。
だけど「仮にも知り合いだしな」と呟きながらナンパの手を握る。
それから「すまない。その子は俺の知り合いだ」と言う。
するとナンパの男達は「チッ。男付きかよ」と去って行った。
「...海だろ」
「...違います。私は飯島佳代子(いいじまかよこ)です」
「嘘ばかり吐くな。...全く。いつから俺達を追っていたんだ」
「...初めから」
海はそう言いながらサングラスを外す。
それから俺を見てくる。
「やっぱり海だったんだね」と双海が駆け寄って来る。
海は「...そうだね」と言ってから横を見た。
「海」
「...私は...」
「...心配になったって事だよね」
「違う。偶然」
「...海。嘘は吐かないで。ただでさえ信頼度0だし」
「初めから私は心配だった。だから付けて来たけど。本当に偶然。...画材を買いに行った帰りだった」
そして海は俺達をまた見る。
俺はその姿に「海」と聞いてみる。
海は「何」と反応した。
そんな言葉に「大海原の絵を描いていたそうだな」と反応する。
「...そうだね。よく知っているね」
「お前はどうありたいんだ。これからは」
「...私は絵を描ければそれで十分だと思っている。特にどうありたいとかはない」
「...例えば俺と復縁したいとか有るのか」
「無い。私は...絶望を生むだけだしね」
俺はその言葉に「そうか」と横を見る。
それから1分間ぐらい沈黙していると「ねえ。海」と双海が口を開いた。
そして海を見つめる。
そうしてから「共同作業しない?」と真剣な顔で言う。
「...共同作業って何」
「...私が海と一緒に絵を描くの」
「...そんな事をする暇は無いでしょう貴方には」
「じゃあ逆に聞くけどお姉ちゃんだって高校3年生で暇は無いでしょう」
「私は...こんな人間だし」
「それはどういう人間?」と双海が聞く。
すると困惑した海。
それから「いや。...どういう人間って」と言う。
双海は「海。私は海のした事は絶対に許さない」と言う。
「洋二さんを裏切った件はね」とも追加でだ。
「...だけど私は貴方の絵が好き。...これは変わらない...私、実は決めた事がある」
「...何を決めたの」
「...海と一緒に画家になりたい」
「...!?」
俺は驚きながら双海を見る。
「貴方にはそれしか生きる術が無いなら。私は貴方のアシスタントとして見る」ともだが。
双海の言葉に酷く海は驚愕している。
それから「...だけど」と呟いた。
「...それから私にはそれ以外にもなれなかった場合を考えて夢を見ている」
「...どんな夢なんだ」
「葬式。つまり遺体の納棺の事で仕事がしたい」
「...お前...」
「私は色々な人の人生が見える仕事がしたい。だから考えた末に行きついた先がこれだった」と言葉を発する。
納棺って...。
俺はその言葉に驚愕しながら双海を見る。
海は「...立派だね」と目を丸くしていた。
「でも何で遺体の納棺の仕事なの」
「私は最後の...最後の別れを...祈りたいの」
「...」
「...色々な人の人生を。どんな人生を送ったか見てみたい」
「ライフサイクル...とか?」
そう言いながら海は双海を見る。
それから双海は海を抱き締めながら「誰もやらない仕事がしたい。人に関わる仕事がね。納棺は...絵と同じ様に美しいから」とも。
俺はその言葉に驚きながら双海を見る。
「...海は何がしたいの?」
「...私は...」
そんな言葉を発しながら海は震える。
それから汗をかき始める。
俺はその姿に海の頭を触る。
そして海を見た。
「...洋二...」
「ゆっくりでいい。...今決めなくても良いと思う」
「...うん」
海はそう言いながら俺達に「今はまだ何も決められないから」と答えた。
それからそのままサングラスを見る感じを見せる。
「こんな人間だしね」と自嘲しながらだ。
俺は「それで良いんじゃないか」と告げる。
「洋二?」
「俺もなりたいものなんて決まって無いから。...お前の人生だ。...ゆっくり歩めばいい」
「...」
「そう。有難う」と言いながら俺達を見る海。
それから苦笑した。
俺はその姿に「じゃあ移動すっか」と言った。
そしてファミレスに取り敢えず向かう事にした。
許嫁に浮気されて裏切られたので落ち込んでいたら大変な事になった アキノリ@pokkey11.1 @tanakasaburou
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