第76話 掛け替えの無いもの


 

 「大丈夫です。次60%でもう一回ぐるぐると50%は無敵で必ず回避してください!」


「「「了解」」」



【デスタイラント】の60%までの回転ラリアットはただ痛いだけで食らっても大した影響はない。しかし50%のサンダーボルトだけは無敵を使ってでも絶対に回避しなければならない。前回全員食らって、ダメージだけならまだしも麻痺効果で動けなくなるという絶体絶命のピンチが訪れた事は皆まだ記憶に新しい事であろう。


 

 前回と違うのは、皆レベルも95Lvになり火力が大幅に上がっている事。

皆が回転ラリアットを躱し攻撃態勢に入るとすぐに60%付近まで削れていく。


ぐっと力を溜めこみ両腕を広げる動作を今回は彩音は見逃さずにー暗雲転身ーで回避することに成功する。皆もすぐに距離を取り誰もダメージをもらう事無く、ハリケーンの様な【デスタイラント】が元の位置に戻るまで見送る。


「次、最大警戒!」


きんぐさんから、50%でのサンダーボルトに対する警戒指示が飛ぶ。


・・・ドクン・・・


 彩音の鼓動が強くなる。

それは【デスタイラント】に対する恐怖や焦りではなかった。

もうすぐだからだ。この凶暴な敵を倒してクエストをクリアすればきっと取り戻すことが出来る。それがいい意味で彩音の集中力を上げる。

【デスタイラント】のHPは残り50%と少し、彩音はここで勝負に出ることにする。

(待っててね。あたし決めて見せるから!)


その時は、すぐに来た。【デスタイラント】が体を凝縮するように力を溜めこむ予備動作と共に体表にバチバチと稲光をほとばしらせる。ボスの共通の動作として威力の高い大技は予備動作が必ずある。それだけ危険という訳で、必ず回避行動を取らなければいけない。その警告を見逃して食らえば大ダメージという訳だ。


彩音は脳内でイメージを何度もしてきた。あの日見た【デスタイラント】が地面を叩いた瞬間に放たれた稲妻を。


今はこの技が使える・・・



ー神威ー



力を溜めこむ【デスタイラント】の眼前で、来いよと言わんばかりに閃光を放ち幻影と肩を並べるアサシン。



グォオオオオオオオオオ!!


ーサンダーボルトー


彩音はキッと【デスタイラント】を睨みつけ指先に全神経を集中させタイミングを伺う。


(ここ!)

ターン!!


ー明鏡止水ー

ー明鏡止水ー


静かな水面に映る月の如く。二つは輝く。


究極のダブルカウンター炸裂。

途中の特別クエストで、数時間を費やしてー明鏡止水ーをクールタイムが明けるたびに使い続けそのタイミングを体に叩きこんだ成果が今、活かされた。


「ヒュゥ~やりますね!」


皆もしっかり緊急回避や無敵技でーサンダーボルトーを凌いでいた。

これだけは、絶対回避しなければならない。大ダメージとその後の麻痺による絶体絶命に陥るからだ。

そして自身の大技をカウンターで食らった【デスタイラント】は残りHPを25%程まで一気に減らしていた。


ー残影乱舞ー

ー残影乱舞ー


カウンターを決めたアサシンは、さらに分身を作り出し4体となりその最大火力で一気に切り刻む。ランタゲ行動も最後のあがきもさせずに、一瞬でその残りのHPを狩り取る。



『~おめでとうございます。きんぐさんのPTにより【デスタイラント】が討伐されました。~』


『~討伐MVPはロックスさんです。おめでとうございます。』


ワールドアナウンスが勝利を告げる。


「お疲れさまでした。」

「終わってみれば、さすがのロッくんだったね。」


「皆さんほんとうにご協力ありがとうございました!。」


今回のドロップに関しては皆さんで、分けていただくよう彩音は辞退した。

最初は、皆で公平にと言われたが彩音がやんやんさんに押し付けるように渡していくものだから仕方なく今回だけと言う事で皆に納得してもらった。


彩音は最初からそうするつもりだった。

彩音はもっと大切な掛け替えの無いをこの討伐により再び得ることが出来るからだ。はやる気持ちを抑えつつ、皆にお礼を言い足早にその場を立ち去るのだった。


最後は彩音のお気に入りの場所に来ていた。

あれ以来、来るのは久しぶりだった。

ロックスの心が分離したあの日以来、彩音はこの場所に来る事が出来なくなっていたのだ。思い出の場所でもあり、とてもつらい体験をした場所。


そこはいつも涼しげな風が吹き、年中春の穏やかな陽に照らされた様な一本桜が咲く丘の上。


ついにこの時を迎える事が出来る事に思わず頬に涙がつたう。


そして最後の特別クエストの報告をした。


『おめでとうございます。これにて全ての特別クエストは完遂されました。後はあなたが呼び覚ましてください。』


特別クエストの完遂報酬【不屈の魂ふくつのたましい


彩音は震える指先でそのアイテムを使用する。



その瞬間ロックスが眩い光に包まれる。





そしてロックスが彩音の方を振り向き静かに親指を立てた。


涙が溢れだして止まらない。心のダムがまたしても決壊してしまった様だった。

仕方ない。頑張ったのだから許してもらおう。




(・・・・おかえり・・・ロッくん・・・)




〔ただいま彩音。頑張ったな。〕



あの日最後に見たロックスの意思のある朗らかな笑顔が再び彩音に向けられたのである。今まで内気でオドオドした少女が挑んだ結果がそこにあった。


これからの彩音とロックスは、物怖じせずに果敢に挑んでいくことであろう。

そしてこのディスティニーフェアリーの終わらない世界を共に歩んでいくであろう。





もしあなたが愛情込めて育てたキャラが喋りかけてきたら受け入れてあげてください。








______________________________________


あとがき



一旦この物語はここで終了になります。

本当は魔王を倒す所まで書くつもりでしたが、諸事情によりしばらく休憩させていただきます。


ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


もしかしたらまた再開するかもしれませんが・・・



















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あたしのアサシンがとんでもない件 おにまる @onimaru777

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