檸檬の実がなる頃
三頭の厳つい白熊がベネチアの土地にレストランをオープンさせてから1年が経とうとしていた。
「いらっしゃいませ。」
「こちらの席へ。」
「レモンソーダ三つ、二番卓な。」
「レモンタルト二つですね!お待ちください。」
「モンブランコーヒー一つ!4番卓!」
今日は土曜日。レストランリモーネには多くの客が来店しており、三頭とビアンカは開店から大忙しであった。
ランチ営業のピークを過ぎた頃。
「こんにちは。」
店の入り口に見知った顔の二人が立っていた。レオナルドとソフィアだ。
「おお!祭りの時以来だな。元気だったか?」
ルッカは二人に近づくと軽く挨拶を交わし、やや混雑している店内を抜け席へと案内した。
「こちらへどうぞ。」
案内された席は、二人が初デートしたあのテラス席。
「あの時と同じ席ね!」
「本当だね。」
ソフィアとレオナルドは嬉しそうに席につくと、早速メニューを手に取り、あれこれと楽しそうに話をしている。そんな姿をルッカは目を細めて見ていた。その時、入り口のドアが開き、小麦色の髪の女性が手を振った。
「いらっしゃい…おお、キアーラじゃねえか!元気にしてるか?」
「ああ、この通りさ!買い物ついでにちょっと寄っていこうと思って。」
ルッカはキアーラを出迎えると、カウンター席に案内した。
「相変わらず大人気だねえ。」
「おかげさまでな。」
ルッカは水とおしぼりをテーブルに置くと、キッチンへと戻ろうとした。
「あ、そうだ。忘れないうちに。」
キアーラはカバンから布袋を取り出した。
「なんだ?」
「前に言ってたパンケーキ用の小麦粉。もちもちに仕上がるように改良したんだ。」
キアーラはルッカに小麦粉の袋を手渡した。
「あー!もうできたのか!?すげえな。ありがとな!」
ルッカは嬉しそうに小麦粉を受けとった。
「今度でも感想聞かせてよ!」
そう言うと、キアーラはにっと笑った。そして、キッチンで作業していたアルロに注文を申し付けた。
「アルロさん、いつもの!」
アルロはふっと笑い
「あいよ。」
とだけ返した。ルッカはそんな二人をニヤニヤしながら見ていた。
店内がカフェ利用のお客さんたちで混み合ってきた頃。
「実は、私たち結婚することにしたんです。」
食事を終え、会計の時に突然ソフィアは三頭にそう伝えた。
「あ!?結婚!?!?」
ルッカは呆気にとられた。
「ええ。皆さんのおかげです。ありがとうございます。」
レオナルドも少し気恥ずかしそうに礼を言った。
「それはおめでとうございます!」
ビアンカは目を輝かせている。
「やるじゃねえか、レオナルド。」
アルロも幸せそうな二人を祝福した。
「それで…ちょっとご相談がありまして。」
レオナルドは少し考えてから話を続けた。
「披露宴をこの店でやりたいんですが、貸切とかってでき…」
「「「「できる(できます)!!!!!!!」」」」
三頭とビアンカは食い気味に返事をした。
「いつだ?明日か?」
「でっかいケーキ作らねえとなあ。」
「やっぱりシャンパンタワーは必須だな。」
「お店も綺麗に飾りつけなきゃ!!」
3頭とビアンカは二人を置いてけぼりでどんどん盛り上がっている。
「あ、ありがとうございます!詳しい日取りはまた相談させてください!」
「良かった!ここで披露宴できるなんて…嬉しいです!」
レオナルドとソフィアは嬉しそうに手を取り合った。
「いいなあ。あいつら。」
ルッカは仲睦まじい様子で帰路に着く二人の背中を見送り、呟いた。
「お前には縁の無い話だな。」
アルロはルッカの脇腹を小突き揶揄った。
「あ?」
ルッカはドスの効いた声で唸り、指をぼきぼきと鳴らした。
「おい。」
その時突然上から声が降ってきた。二頭はばっと顔を上げると、ルッカよりもガタイの良いサングラスをした白熊が立っていた。
「ボ、ボス!?」
アルロは驚いて持っていたトレーを取り落とした。
「ボス、お久しぶりです!」
「ボス、またお会いできて光栄です!」
アルロとルッカはマルコの持っていた鞄などを預かろうと、跪いた。
「おいおいやめろよ。お客様がびっくりするだろうが。」
マルコは跪く二頭の額をビシッと弾いて店内へと入っていった。そんなマルコの後を一人の可憐な女性が着いていく。アルロとルッカは額を抑えながらその女性を目で追い、目を見合わせた。
「ボス!遥々ご足労いただきましてありが…」
キッチンで作業していたヴァレンティノが入店したマルコに駆け寄り労いの言葉をかけるが、マルコは話の途中でヴァレンティノの額もビシッと弾き、空いてる席に座った。
「マルコさん!お久しぶりです。もしかしてその方が…」
ビアンカはマルコに駆け寄ると、女性の顔をまじまじと見つめた。
「初めまして。マルタと言います。」
「ああ、同居人だ。」
マルコはなんでも無いようにそう言ってのけた。
「「「ど、同居人!?」」」
三頭は驚愕した。
「私は獣医師なんですが、マルコさんがローマに新しく診療所を建ててくださって、私はそこに勤務しているんです。経営に関してはマルコさんが色々と手伝ってくださっていて。その診療所の二階が家になっていて、そこに一緒に住んでいます。」
マルタはそう説明するとマルコの腕を取った。完全に恋人同士に見える。
「「「…!!!」」」
三頭はその姿を呆然と見つめた。
「わあ、ローマで新生活!素敵ですね!」
ビアンカだけはローマでの生活を妄想して目を輝かせている。
「あのボスが動物病院の経営だと?」
「しかもあんな可愛い女の子と…!?」
「ありえん。」
三頭は小声でボソボソと言い合ったが、アマルフィにいた時には見たこともないようなマルコの表情を見て、三頭はなんだかむず痒いような気持ちになるのだった。
なんやかんやレストランリモーネは今日も元気に営業中。
庭の花壇に生える檸檬の木には、黄色く輝く檸檬の実が太陽の光を受けてピカピカと輝いていた。
檸檬と白熊 春野田圃 @haruno_tambo
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