【KAC2024】巻き戻し探偵神宮寺那由多は巻き戻す 内見の同行者

白鷺雨月

第1話 巻き戻し探偵は同行者

神宮寺那由多は友人の高橋美也子に頼まれて、とあるマンションの内見に同行していた。美也子の夫である勇人も一緒だ。


「どうですか? こちらのお部屋は角部屋で駅も近くて便利ですよ」

にこにこと営業スマイルで不動産会社の女性が那由多に語りかける。


「そうですね、いい部屋ですね」

と那由多はあたりさわりのない返答をする。


「ねえねえ、那由多ちゃん。リビング広いわね」

友人の美也子ははしゃぎながら那由多に話す。彼女は心のそこから笑っているように見えた。


「勇人さん、子供ができたらあそこの公園で遊びましょう」

勇人の腕に抱きつき、美也子は一緒にベランダに出る。

窓は不動産会社の女性によって開け放たれていて、下には大きな公園が見える。

ジョギングをしている人がいたり、犬の散歩をしている人もいる。ベビーカーを押している人もいる。


「このマンションってペットもかえるんだよな」

勇人が眼下に見える人たちを見ながら、美也子に言った。

「えっそうなの、那由多ちゃん?」

美也子は夫の質問を那由多に丸投げする。


「この部屋はペットも飼えるのですか?」

那由多が不動産会社の女性に訊く。


「ええ、ワンちゃんも猫ちゃんも飼えますよ。ただ、ワンちゃんは中型犬までですけどね」

営業スマイルを崩さず、彼女は言った。


「だってさ……」

頭をかきながら、那由多は二人に言った。


「そうなんだ、僕ね、小さいころ犬を飼ってたんだ。また飼いたいな」

勇人は美也子を見ながら言った。

「いいわね、犬も猫も飼いましょうよ」

勇人の腕に抱きついたまま、美也子は言った。


この後、那由多は美也子と勇人がいちゃつきながら、部屋の内見をするのを一時間ほど見せつけられた。

だまって立っている那由多を不思議そうに不動産会社の女性は見ていた。



夕暮れの帰り道、美也子と勇人は那由多に礼を言う。

「ありがとうございます。今日はとても楽しかったです」

勇人は深く頭を下げる。

「ありがとうね、那由多ちゃん。これで私たちも心残りなくあっちにいけるわ」

美也子は笑顔で那由多に抱きついた。

「本当にありがとう、じゃあね。那由多ちゃん」

そう言い、美也子は勇人と手をつなぎ道の向こうに消えていった。



「不動産会社に断りの電話をいれないとな」

神宮寺那由多は一人つぶやく。

神宮寺那由多はブックマークをつけていたネットニュースのマークを外す。

その記事は高速道路で玉突き事故により、夫婦が死亡したというものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC2024】巻き戻し探偵神宮寺那由多は巻き戻す 内見の同行者 白鷺雨月 @sirasagiugethu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ