また会えるよ

奈那美(=^x^=)猫部

第1話

 カラカラ……

乾いた軽い音を立てて、玄関の引き戸が開けられた。

「塔田様、こちらが先日ご紹介させていただいた物件でございます」

黒いファイルを手にしたスーツ姿の男が言った。

「へぇ。なかなかよさそうな玄関だね、佐藤さん」

塔田様と呼びかけられた男が、スーツ姿の男に続いて玄関に入ってそう言った。

 

 「あら、ほんと。広さもあるし、いいんじゃない?」

塔田と同世代らしい女性が続いて入ってきてそう言った。

「どんなの?どんなげんかんなの?」

幼い男の子の声が外から聞こえてくる。

「ほら、入っていらっしゃい。どう?隼人はやと

「うわぁ、すごくひろい!ぼく、このげんかんすき」

「今住んでるアパートは、玄関が狭いもんねぇ」

 

 「それでは、これより内見のご案内をさせていただきます。こちらのスリッパをお使いください」

佐藤と呼ばれた男は玄関にスリッパを三人分並べた──ひとつは子供用を準備してあった。

「まずは、玄関を入りましてこちら左がお手洗いとなってまして……」

玄関から順番に扉を開けて、内部を確認しながら四人は奥へと進んでいった。

 

 「へえ、どの部屋も素敵じゃないか。古い日本家屋をリノベーションしたとは思えないよ」

「ありがとうございます。外見はほぼ元のままで、内部のみ現代風に改装してございます。もちろんエアコンも設置してございます」

「お手洗いもウォッシュレットになってたわよ」

 

 (ねえ、また誰か来たみたいだよ?)

(また、か。今度はどんなやつらだよ?)

(えっとね……今度は三人。家族連れみたいだよ、小さな男の子がいる)

(ふぅ……ん)

 

 「そして、こちらがキッチンとなります」

「あら、素敵。こういうのL型って言うんだったかしら?」

「さようでございます」

「この作りだったら、隼人がリビングで遊んでいるのも見守れるわね」

「そうだな。今のアパートは台所から部屋の中が見えないもんな」

 

 (ねえ、こっちに来ちゃうよ?)

(大丈夫、だろ。どうせ見えやしないから)

 

 「最後に、こちらが和室になります。建築当時の趣を残したまま耐震基準に適合する工事を行なってます」

「へえ、梁がむき出しなんだ。子どものころ行ったじいちゃんちを思い出すな。お!掛け時計まであるんだ。懐かしいな~振り子時計」

「はい。梁も時計もこの家が建った当初からあるものでして。時計は今でも問題なく動きますので、そのまま設置しています」

 

 「たたみ!きもちいい!!」

「こら、隼人。寝転んじゃダメよ。ごめんなさい、佐藤さん」

「いえいえ、構いませんよ。どうかな?ボク。たたみのお部屋気に入った?」

「うん。……あ」

 

 (あ……あの子、こっちを見てる)

(まさか。たまたまじゃないか?)

(ううん、しっかり見てる。そして笑ってる)

(……ほんとだ)

 

 「どうかしたの?隼人」

「ううん。なんでもない。ねえ、ぼく、このおうちすき」

「そうね、ママも気に入ったわ。……あなたはどう?」

「俺も、結構気に入ったよ。古民家の見かけなのに中は今風というギャップも面白いし。うん、ここに決めた。契約するよ、佐藤さん」

 

 「ありがとうございます。それでは事務所に戻りまして、契約に向けた手続きを進めさせていただきます」

「お願いします」

「ねえ、このおうち、ぼくのおうちになるの?」

「そうよ」

「わぁい」


 (……あの人たち、帰っていくよ?あの子、ぼく気に入ったんだけどな)

(なぁに、契約するって言ってただろ?また会えるよ)

 

 

 







 古いモノは、付喪神となって家を守るのです。

 

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