3
幸せな日々は、それから何週間も続いた。
かつての、何もかもが戻ってきたような気がした。
毎朝、優しいお母さんの手料理を食べて。
お父さんは毎朝、友達と一緒に行く様を見送りに玄関まで来てくれるし、伊織もすっかり立ち直ったみたいで、元気に私の隣を歩いてくれている。
葵はいつもおにぎりかパン片手に、登下校まで一緒にくだらない話――昨日みたバラエティはどうだったか、とか、ティックトックで流れて来た動画だとかを話題にして。
学校で、ティックトック踊って。
忘れ物をした時、お互いに貸し合ったり。
充実した日々が、受験間際まで続いた。
受験勉強中も、深夜までいつまでも話しながらやって、流石に声を大きくさせ過ぎたみたいで、お父さん起こしちゃった事もあったっけ。
そして、高校卒業。
木漏れ日の中、桜散る校庭で、記念撮影して。
――出来過ぎてるぐらい、幸せな日々を過ごした。
そんな時だった。
「よ」
あの、悪魔さんが久しぶりに姿を現したのだ。
姿は相変わらず変わっていない。
校庭にある、木に腰かけて、桜の花びらをむしりながら、笑ってこちらを見つめていた。
「悪魔さん!」
「久しぶりだなお嬢ちゃん。ちょっとは背、伸びたか?」
まるで、親戚みたいな物言いだった。
それにくすりと笑って――。
「悪魔さん、ありがとう」
「お?」
「私、あなたのおかげで何もかも……何もかも幸せです!」
笑みが零れて、うん、とお辞儀をする。
すると――――噴き出したように、悪魔さんは笑った。
「ふ、はははははっは!!! お前さん、何か勘違いしてないかい?」
「え、何言ってるんですか」
「ここまで、お前さんが掴み取ってきた幸せだぜ? ――――だって」
刹那。
目の前が、真っ暗になる。
腕は重く、自分の体を持ち上げでもしているかのように、力が入っていた。
脚は――――地面から、離れている感覚がする。
両手を見てみると――手は、輪っか状の縄にしがみついていた。
「これ、“お前さんが掴む筈だった未来”、なんだもんな?」
「……嘘」
苦しさ、よりも首から頭が離れていく激しい痛みが一瞬襲って――鮮明に、記憶が流れ込んでくる。
「お前さんの、走馬灯に混じった妄想を、俺が形にしてやったんだよ。それにお前は言ったよな?“どうせ死ぬなら”って」
もはや、言葉を言葉として理解が出来なくなっていた。
音楽が、あの音楽が流れているのが解る。
「あるかもわからぬ地獄、縋ってもいけないだろう天国。それらに希望を見出して、勝手に失望した報いってやつだ。でも、もう安心しろ」
体は脱力しきっている。
意識が、段々薄れていく――――闇の中へ。
「
――――音楽が、止まった。
こえも、いまはきこえない。
嗤う悪魔の現代愉悦録 ろーぐ @rougue_story
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