第2話


「うわぁ!次は天狗か!?」


天狗という言葉を聞いた瞬間おっさんの表情が渋いものとなった。


「ワシは天狗ではないわい!こう見えてもかなり気にしてるんじゃぞ…」


隣の女神にこのおっさんの正体を聞こうと隣を見るとそこにはそれはそれは綺麗な子尾部を垂れている女神の姿があった。


「お、おいミコト、この人は一体何者なんだ…?」


こちらの方を向くと頭を抑え跪かせようとしてきた。


「ちょ、あなた、早くあなたも跪きなさいよ!」


「別にそう跪かなくても良い。久しいな、今はミコトだったか、会うのは年振りかのぉ」


「お、お久しぶりです!サルタヒコ様、お会いするのは700年振りでこざいます…」


サルタヒコ、サルタヒコ…。

全くわからん。


「あの、ミコトさん…?サルタヒコ様ってどんな方なんでしょうか…?」


おやおや、どうやら次は顔芸を披露してくれるらしい。

口を開けて若干白目を向きながら固まっている。

どうやら驚きのあまり固まってしまっているようだ。


「サルタヒコノカミ様は導き・縁結びの神様の中でも上位のお方、いわば私の上司にあたる方よ!」


あー、つまり『縁結びの神』という部の中でこのお方は部長に当たるお方というわけか。

というかミコトさん、あなた縁結びの神様だったのね。


「それで、そのサルタヒコ様がなんの御用でこちらに…?」


サルタヒコ様は顎に生えている立派な髭を触りながらこちらを見てくる。


「それはミコトから聞いたほうが早いと思うがの」


ミコトの方を見る。

ミコトさんや、なぜそのような気まずい顔をするんだい?

ミコトは重々しく口を開き始めた。


「その、さっき私には名前が無いって言っていたじゃない…?それはね、まだ私が神として未熟で名前を貰えないからなの…」


あーだから名前を貰うことに抵抗があったのか。


「それでね、名前を貰えるような一人前の神になるにためには条件があるの。それは、人間の恋を成就させることなの」


「それで、俺になにをしろと…?」


「その、あと1人でその条件を達成できるのね」


段々と話が読めてきた。


「それで、俺に協力しろと?」


ミコトの顔がパッと明るくなった。

ほんとに表情がわかりやすいな。


「そう!あなたにはその一人になって欲しいのよ!」


うん?想定していた内容と違うぞ。

俺がその1人になるのは想定していない。


「え、普通に嫌なんだけども…」


「そう!ありがってえぇ!?なんで?なんでよ!?」


「いや、だってなんか?嫌じゃん?」


「いやそんな理由で拒否しないでよぉ!?神様の導きによる結びは永遠物になるのよ!?」


いや人生操作されるのかよ!怖!


「まぁまぁ、そこの若いの1度落ち着かんかい。でもの、ほんとに良いのか?」


しばらく沈黙を続けてきたサルタヒコ様が口を開いた。


「今ワシが見た限りじゃとこの先の数年以内に運命の相手と結ばれる未来が見えるがのぉ」


「でも、それはミコトが干渉した結果じゃないからでしょうか…?」


「いや、これは俗に言うじゃ。ミコト程度の力が干渉できるようなものじゃないの」


「そのサルタヒコ様、その言い方はあんまりじゃないでしょうか…?」


ミコトのサルタヒコ様を見る目が何かを訴えるような物になった。

凄い涙目だ。正直見てて面白い。


「ワシからも頼む。ミコトの手助けをしてやってくれ。もちろん、タダとはいわん!」


こちらに対し頭を下げてきた。凄い断りずらい…。

それに、見返りが貰えるのか…?


「見返りとしてお主と、その子孫達にワシの加護を付与する。それにお主の子孫が路頭に迷った時助力となるぞ!」


え?心が読めるのか…?


「そうじゃ。読めるぞ」


…やっぱり神様って怖いんだな。


「…はい、わかりました…。お手伝いします…」


ミコトの顔が凄い可愛い笑顔に変わった。もうなんか犬を見ているようだ。

サルタヒコ様の方はどうやらホッとしたらしい。

安堵の表情を浮かべている。


「それでそのサルタヒコ様、その加護を今すぐに使いたいのですがよろしいでしょうか?」


「ほぉ、それは一体なんじゃ?」


「実はですね、自宅の鍵をク…黒猫に盗られてしまってて行方不明でして鍵の場所を教えてほしいのです…」


「あぁ、それか。それならほら、この使いが持っておるぞ」


するとサルタヒコ様の後ろの茂みから先程のクソ猫もといサルタヒコ様の使いが自宅の鍵を咥えでてきた。

…ん?サルタヒコ様の使い…?

ということは、これまでの流れは仕組まれていたってことなのか…?

恐る恐るサルタヒコ様の方に顔を向けるとそこには腹立たしい程ニッコニコな顔でこちらを見ている。


「なぜ、僕がここに導かれたんでしょうか…?」


「そうじゃのう…」


黙り込み、数分の間が空く。

思わず唾を飲み込む。


「それは…」


「「それは?」」


思わずミコトと声が被ってしまった。


「気分じゃ!」


…思わず汚い言葉が出そうになるが、寸前で思い留まる。というか考えることさえ思いとどまる。心を読まれたらなにをされるか分からない。


「そんな物騒なことはせんよ。ほれ、返してやりなさい」


ほら、もう心を読まれている。

やっぱり神様って怖いんだな。

おや?足に猫がまとわり付いてきてちょこんと目の前に座った。どうやら手を差し出してほしいらしい。

手を差し出すと手の上に鍵を置い、なにやらにゃあにゃあと泣いている。

この猫の謝罪らしい。ここは受け取っておくとするか。


「それでお主、なにやら急いでいたようだが大丈夫なのか?」


…カバンから携帯を取り出し時間を確認する。

…空って、こんなに綺麗だったんだな。


「その様子じゃと、どうやらダメみたいらしいの」


「申し訳ないのですが、そろそろ行かせてもらっても…?」


「ワシは構わんが、ミコトはどうじゃ?」


若干というか、かなり空気になっていたミコトの方に視線があつまる。


「私も問題はございません」


ということならばここから去っても大丈夫だろう。

地面に置いたカバンを持ちホコリを払う。


「それでは!これで失礼いたします!」


サルタヒコ様に対してお辞儀を、回れ右をして鳥居に向かって全力ダッシュを決める。

この時間なら、まだ入学式にはギリギリ間に合うはずた…。


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「それで、ミコト。お主の処遇についてだが」


「と、いいますと…?」


ほんとにこの子はわかりやすいの。

緊張が表情にでてわい。


「これからしばらくあの少年に着いていなさい。そのような顔をするな。そしてしばらくこの社に立ち入ることを禁ずるぞ」


「え、えとその、私はどこに住めばいいのでしょうか…?」


「それはもちろんあの少年の家に住めばよいのではないか?あ、あとあの少年を手助けするようにこちらから手伝うから」


「え?そんな突然言われても…」


「ほら、早く出ていった」


ミコトを浮かせ鳥居の外に放り出す。


「結界を貼ったからもう入れなくなったぞ」


「え、ちょ」


「ほら、早く行った行った」


渋々といった顔で山を降りていくのが見えた。


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「はぁ、やっと行ったか…。これでやっとあやつも上級の神に昇格できるかの」


ほんとにあやつは…。あれだけの強い力、上級の神になって200年もすればワシのことなんて軽く超えることができるのにのぉ…。


すると後ろから「ミヤァ」という声が聞こえた。


「そう言わなくても良い。別に誰もお前さんを怒ったりしとらんよ」


「それはそうとなぜあやつを選んだんじゃ?」


「ミャア」


「やっぱり気分じゃったか」


しかし、あやつ一人だけだとちと心配じゃのぉ…


「ミャア、ミャミャア」


「そうか、お主も着いていくか。なら加護を付けて置くとするか」


「ミャアミャア」


黒猫が鳥居から出て行くのを見送る。

あやつも大変じゃの。


しかし、あの少年…。

ちと不思議な運命じゃが、はてさてどうなるやら。

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コイガミサマ! 堕落女神と始める学園ラブコメ @kokenokokeshi

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