第7話 「取り巻く者たち」


「おいコラ、ベルデット! てめえ何やってんだ、こんな所で!」

「やめるんだ二人共! そんな言い争いをして、一体どうしたというんだ!」


目の前にいる、3人の少女たち。そのうちの一人に俺は、声をかける……というか、叱りつける。

そして、それは王子も同じ。もう二人の方に、彼は言う。


「ヘイン、シューレン! 何をしているのか、と聞いているんだ!」

「だから、あんたは……って、王子⁉」

「ちょっと、何やってるのよヘイン! 王子に見られちゃったじゃないの!」

「仕方ないじゃないの! それもこれも全部、この女のせいよ!」

「あぁ⁉ 何を寝ぼけた事言ってんのよ、私に自分の失敗を押し付けてくるんじゃないわよ、腐れ姉妹!」


……こいつら二人、どうやらベルデット並みに喧嘩っ早いように見える。しかもそれでいて、なかなかに図々しい。

王子本人が来ても、彼女らは炎魔法の形成を止めないで火を絶やすまいとしているようにさえ見えるのだ。


「おいお前、聞いてんのか! ベルデット……てめえ、聞きやがれよ!」


仕方ないので、俺は彼女に近づいて肩を掴む。それによって彼女の豊満な肉体は少しばかり揺れたが、俺とてそれを目に入れている場合ではないのだ。


「ちょっと、何……って、ハル⁉ ちょっとあんた、誰のせいでこうなってると思ってるのよ!」

「お前こそ、誰のために俺がこんな七面倒臭い事に首を突っ込んだと思っている! いいからすっこんでろ、王子の前だぞ!」

「えっウソ、いやホント! 誠に失礼いたしましたっ!」


とにかくこれで、片方は解決。そしてもう片方も、その方向に向かっているらしい。


「ああいや、違うぞベルデット。別にそこまで畏まらなくても……」

「ちょっと、元凶が首を突っ込んでくるんじゃないわよ!」

「そうよそうよ、そっちがすっこんでなさい!」

「……お? なんだクソったれ共、そんなに顔面ひしゃげさせられたいか? いいぜ、望み通りにしてやるよ。顔面に世界地図書いてやるってんだ!」

「待って待ってハル、乗っかるんじゃない! 彼女らも地位の高い貴族なんだ、手を出したら本当に君は終わりだぞ!

そして二人共、私の前でそんな恥を晒すんじゃない! 王家の顔に泥を塗るためにここに来たのか、君たち二人は!」


……いや、何となくだが彼も彼で大変そうだ。喧嘩を吹っ掛けられたものだからついつい反射的に振り返してしまったが、冷静になって考えてみるとあまり良くない行動だった。

そのおかげで、王子の方が大変な状況に陥っている。俺が招いた事なので俺が対処するべきなのだろううが、かといって下手に手を出すのは炎魔法に魔力を送り込む事と同じだ。

心苦しいが、ここは静観が最適解だな。とはいえ、王子ともあろう人が自体の収拾に翻弄されるというのは滑稽で笑えるものだという事は否定しないがな。


「……っ、二人共!」


実に苦しそうな表情を浮かべながら、王子は手から光を出し始める。俺と交戦した際にも使った、剣を生み出すシュゲイルと同じだ。

しかし流石に、それはヤバい。あればっかりは洒落にならない。その威力を受けたことのある俺は、流石に傍観するのをやめて急ぎ足を動かそうとする。

しかし、俺が注意していたその手から、出てきたのは……


「……紙? それも、巨大な紙束?」


……それは、剣のような大きさをしたモノ。

しかし、そこに刃はない。そして刀身となっているはずの部分も、横向きになっているようだ。

……いや、違う? あれは、刀身ではない?

俺が今まで刀身だと思っていた部分が変形し、扇状にゆっくりと展開されていく。

そして、その扇には一定の間隔で折り目があった。更に彼は、それを振り上げつつ言う。


「いい加減に……!」


……そして、それは振り下ろされた。


「しろぉおおおっ!」


それはまるで、閃光だった。一瞬にして一撃目が振り下ろされ、それを認識したと思ったら既に二撃目が振られている。


「きゃあっ!」

「あぃたっ!」


鳴り響く、二つの乾いた音。

その見事な手際に感心しつつも王子の方を見ると、どうやら今のは彼にも結構きついものだったという事が疲れ具合からわかる。


「……一閃、いや二閃と言うべきか。凄まじいですね、今の。」

「はぁ、はぁ……え? あぁいや、大した事じゃない。これもシュゲイルのおかげ、というやつさ。」

「だとしても、ですよ。というかその二人、死んでません? 大丈夫なんです?」


……その瞬間の斬撃を喰らった二人は、その場で重なり合うように倒れ込んでいる。

そんなにヤバい威力が出ていたような音ではないはずなのだが……と思っていると、彼女らは再び立ち上がる。


「……大丈夫さ。こんな風に、喰らっても少々身体が痺れるだけ。」

「ああ、痺れてたんですねこれ。てっきり意識を失ったものかと思いましたよ。」


などと軽い会話を交わしているうちにも、彼女らは喋ろうとする……が、舌が痺れたのかうまく発声ができていないようにも見える。


「ふぃびびびび〜〜……」

「ご、ごめなひゃい……ほらお姉ひゃん、ちゃんと……あ、治った。」


何だこいつら。初対面の状態で今のこいつらが喜劇役者だと言われたら、信じるぞ? 俺は。


「……すまないね、ハル。でもさすがに、今のは短気すぎないかい?」

「いえいえ。あの状況ではぶん殴った方が速いと判断したまでのことですし、実際あなたもそうした。違います?」

「まあ、そう言われてみるとそうか。しかし、相手が悪かったね。」

「……強いんですね、王子様。」

「おいおい、私の事をそう言うのはやめてくれたまえよ。

折角一人の男として学生生活を送ろうとしているのに、台無しだ。まあ、女性にはあまり理解のできない事かもわかりませんが。」

「……だそうだ、ベルデット。今後はやめとく事だな、“王子”呼びくらいで抑えておけ。」


王子のために手……でなく口を貸してやると、ベルデットは納得して口をつぐんだ。

そして更に、今度は王子の方の少女たちが言う。


「しびび……っ、ふん! 平民のくせに、随分な口の利き方ね! 王子に免じて許してあげるけど、次同じ事になったら覚悟しなさい!」

「そうよそうよ、覚悟なさい!」


……もう一度、五指に魔力を込める。今度は容赦しない……!


「私の話を聞いていたのか、三人とも! 私はやめろと言ったはずだ! また痺れたいか、あぁ⁉︎」


……流石に、このくらいの魔力は探知されてしまうものか。交戦しようとしていた事は、一目でわかったらしい。


「……まあ、いいや。とにかくだ。二人とも、自己紹介をするんだ。いいね?」

「……はぁい。」

「うーん……じゃあ、妹の私から先に。

私の名は、ヘイン・ハンレッド・シャルート。シャルート家の次女で、得意な魔術は電気の系統。」


そう先に言ったのは、青い髪飾りで長い金髪を後ろで一つに束ねて垂らした少女。

……最近造られた言葉に“ポニーテール”というものがあり、どうやらそれのようだが……

とにかく、そんな髪型のスレンダーな少女。


「よし、よくできた。次は君だ、シューレン。早く。」

「はいはい、わかりましたよ……。

私の名前は、シューレン・ハンレッド・シャルート。シャルート家長女で、得意なのは炎系の魔術。これでいいかしら?」

「まあ、いいだろう。」


次にそんな事を言うのは、紫の宝石が入った指輪をした少女。

そして彼女もまた金髪であり、こちらは短髪だ。更に、彼女は、スレンダー……かと聞かれると微妙だが、まあいい。

とにかく、そういう奴らが二人だ。そしてそうされると、こちらもさせざるを得ない。


「……さて、次はお前だぞベルデット。」

「え、私? 嘘でしょ、この空気で⁉︎」

「いいからやれ、お前もやらにゃならんだろ。」

「えぇ……あぁもう、仕方ないわね……!」


彼女は渋る。だが、そんな中でも割り切りを見せたのだろう。

やむを得ないとばかりに、彼女は口を開いた……。

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少年は三次元を征く〜俺の戦いは、“次元”が違うので〜 おにいちゃんです @karukano

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