第6話 「その力の源は何なのか?」
……正直、勘弁して頂きたいものだ。
彼は恐らく、俺の持っている戦闘能力の理由を暴こうとしているのだろうが……俺としても、よく分からないのだ。
「興味があると言われましても、俺だって意識して強くなったわけじゃないんですよ? ただ何となく、感覚で自分の力を使っているだけだ。
元々あった力を活用しているだけで、そこに原因なんてありません。もしあったとしても、それは俺には知覚出来ないこと。聞かれたところで、どうのしようもありませんよ。」
「だとしても、君が強い事には変わりがないはずだ。それに、気になる点もいくつかある。君の戦闘方法、特に剣撃への対応は特に気になるね。
私は、君の対応と似た方法を取っているような人間を知っている。リシュタルト王国の、特務部隊……第23戦闘部隊に所属する者たちだ。」
「23戦闘部隊と言いますと、あれですか?
王国軍の、23戦闘部隊。この国に生きる人間からしてみれば、誰しも一度くらいはその名を聞いた経験があるのではないだろうか。
所属としては王国軍に当たるものの、その実態としては王宮の命令を第一に動く専属部隊。
その歴史は古く、この国ができた当初から既に彼らは存在していたらしい。そしてなんなら王国軍の原型は彼らであり、王国軍の方こそ本筋ではない存在だという説さえあるほどだ。
そんな彼らの話を、学校長はわざわざ俺たちにしてくる。
「その部隊なら私も、話を聞いたことはありますね。偶にですが、王子としての私を護衛していただいたこともありました。」
「ええ、そうですね王子。あなたもよくご出席されているであろう式典などでは、まさにそうです。
更に彼らは全員練度が高く、その上ありとあらゆる軍事訓練を受けてきたとも耳にしています。
そしてハル君。あなたの動きは、彼らが行う剣撃対策のそれに酷似したものでした。
相手があなたの方に距離を詰めて来た場合、可能な限り引き付けてから回避して反撃する。そしてその際、反撃手段として用いるのは魔力を使った攻撃が望ましい。
もし仮に回避が不可能な状況だった場合、魔力を固めて一時的に受ける。また、それに際して可能であれば相手の得物の破壊も試みる。」
「……そんなもの、戦闘に慣れた人間になら幾らでも考えつきます。」
「ええ、そうでしょうな。対人戦に慣れた人間であれば、そういう事は容易にお考えになられるでしょう。」
「ちょっと待った! なんだって対人戦とか、すぐにそう言うんです!」
「しかし、あなたの得意分野である危険性物の退治において近接戦闘をする事などまずありません。
高純度な魔力を全身に流している相手には、近接戦闘でまともなダメージなど与えられる方法はないからですよ。
では、近接戦での対応などそもそもあまり考えないはずだ。
そして仮に考えていたとしても、身体能力が強化された敵の攻撃を回避する前提の戦闘スタイルなど取られるはずはない。」
「……もしかして、俺が凶悪な犯罪者だとかお考えになられていません?」
危険生物退治では、確かにそこまで近づく人間はいない。普通の戦闘方法で言うならば、中距離から遠距離で射撃戦を行うのが一般的だ。相手が攻撃を当てる事のできない距離から敵を撃つ、という戦術だな。
そして、俺の戦闘スタイルは、それとはまた違うものである事を見抜かれたのだ。
そんな俺は少しばかり彼の言葉に不安を掻き立てられ、焦りつつも言葉を発する。
しかし、帰って来たのは安堵を呼んでくれる答え。
「まさか。私どもとて、筆記試験主席の方ともなればある程度の探りは入れさせていただいておりますとも。
普段の素行や過去の経歴などは、調べさせて頂きました。
そしてその中で、あなたは危険な人間ではないという事がはっきりしていますからね。」
「あぁ、なんだ……」
「ただし。私どもは、貴方が重度の戦闘中毒である事も存じ上げております。
血の気が多く、戦う事を楽しむ。そこに相手の制限は基本的に存在しない。」
……この様子だと結構、自分の事は知られているものか。だがこちらとしても、知られて問題のある事が知られている様子はないようだ。
しかし、いつ彼らは俺の事を調べたのか。ここ数年の間は背後をつけられている感覚はなかったはずだが、一体いつなのか。
しかし、どうやら俺の腕もまだまだであるという事は間違いないらしいな。
「……まあ、いいや。それより重要なのは、そのうえであなた方が俺に何を感じているかです。」
「そうとも。そして私達が君に聞くのは、“君が何者であるのか”という事だけだ。
軍人並み、それも上澄みと呼べる人間と同等程度の王子と互角以上に立ち回り、危険生物の排除を易々とこなす。
更に、特務部隊の戦闘スタイルを使っている……君は一体、何者なのかな?」
「……ただの一般人ですよ。何の変哲もない、ただ少し戦闘能力が高いだけの。」
「ふむ、流石にこの程度で口は割りませんか。
まあ、全ては偶然である可能性を否定するには証拠が足りなさすぎますからな。」
……そうだ、全ては偶然だ。そのはずなんだ。
そんな特務部隊、名前は知っても見た事などない。訓練を受けたかどうかと聞かれれば、尚更ないと言えるだろう。
だから、俺は一般人だ。それ以上でも以下でもないことは、誰の目から見ても明らかなはずなんだ……。
【◯】
「……さて、と。王子、こいつは俺たちももう出ていっていいはずですよね?」
「ああ。もうこの後は帰ってもいいという事らしいから、これにて今日のやるべき事は終わりだ。」
……結局、俺たち二人はあの後で特別に非難されたわけでも色々と追求される事もなく。ただ少しばかり話をし、部屋を出ていくあの学校長を見送った。
そして次は、俺たちの番だ。そう思い立つやいなや俺は立ち上がり、王子のために先に扉を開けておいてやる。
「……おいおい、やめてくれよ。私達はもう仲間だろう、うん? 同じ説教部屋で仲良くお話を聞けば、それはもう仲間の証さ。」
「そういうものでしょうか? まあ、あなたはそうお考えかもしれませんが。」
「ふむ、君も変な所で堅物だな……では、こうしよう。王子として、国民である君に命令する。
私に対して、変に気を使いすぎるのはやめたまえ。少なくとも、二人だけの空間では。」
……どうやら、俺も俺で考えすぎていたらしい。
こちらは“王子を相手にしている”という先入観からこういう行動に出てみたが、彼の方は対等な友人関係を望んでいるようにも見える。
だが、ここで調子に乗って安易な行動に出るのは悪手。故に、一旦話題を逸らしてみようと彼へ言葉を投げかける。
「失礼ですが、王子……扉の先を御覧ください。」
「ん? ……ああ、しまった。すまないね、こちらの監督不行き届きだ。」
「いえいえ。あなたがそうであるのならば、きっとそれはこちらも同じですよ。」
……扉を開けた先には、女が3人。そのうち一人はベルデット、そしてペアとなっているもう二人は知らない女たち。
だが王子の口ぶりから考えるに、彼女らは王子の知り合い。そして見る限り、彼女らはベルデットと何か言い合いをしているように見える。
……ベルデットは、その清楚そうな見た目からは想像できないほどに激情家なきらいがある。故に、ああいう言い合いには積極的だ。
そしてそうなると、こればかりはやむを得ない。俺は彼女を止めるため、王子を部屋から連れ出したその足で三人の方へ向かう……
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