第4話
母方のお墓がある霊園は町を見渡せる高台にあった。最寄り駅まで電車に乗って、それから徒歩で20分ほどの距離だった。
「きれいにしてるんだね、お墓」
祖父の眠るお墓を見て桐子さんがぽつりと呟いた。
「週に一度、おばあちゃんが掃除に来てるんです」
「鉢合わせしちゃったりしない?」
立花がギョッとした顔で僕を見た。
「大丈夫。今の時間帯には来ないはずだから」
「なんだか心配」
僕らがそんなやりとりをしていると、桐子さんが一歩前に出た。墓石の前にしゃがみ込む。
「直仁くん、ライター貸してくれる?」
僕は言われるままにカバンからライターを取り出して桐子さんに手渡した。桐子さんが火を点けようとしたけど、それは叶わなかった。
「オイルなくなってる。仕方ないか、直仁くんまだタバコ吸えないもんね」
そう言うと桐子さんはズボンのポケットを探って自分のライターとタバコを取り出した。一本を口に咥え、ライターで火を着ける。タバコの先からか細い煙が上がり始めた。
「お父さん、遅くなってごめん」
桐子さんの声は少し震えているように聞こえた。
「あのライターもここにあるよ。お母さんが大事にしまってた。今は直仁くんが持ってるけど、それでもいいよね」
後ろで立花が鼻をすする音がした。喫茶店の時といい案外涙もろいようだった。
しばらく誰も声を発しない時間が過ぎてから、桐子さんが急に立ち上がった。携帯灰皿にタバコを捨てると、
「直仁くん、ありがと。君にライターをあげたのは本当に気まぐれだったけど、巡り巡ってこうしてお墓参りができました」
と頭を下げた。僕がどう答えようか迷っていると、立花が桐子さんの腕にしがみついた。その顔は涙と鼻水でグショグショだ。
「お姉ちゃんよかったね。ううう、よかったよー!」
それから立花が泣き止むまで待ってから、僕らは各々の家に帰っていった。
その日の夜に立花からメッセージが届いた。それによると、今度桐子さんがお母さんと二人で改めてお墓参りに行くそうだ。
僕はそのメッセージを何度も読み返した後、机の上にあるライターに視線を向けた。それは電灯の光を静かに虹色に反射していた。
あの日のライター 石野二番 @ishino2nd
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