第7話 初めての仲間
【初めての仲間】
アーテルはナイフで切り裂かれた自身の肉を治すためにサドの軽自動車の隣で包帯を巻く。
サドは車の運転ができるようで、誰かが乗り捨てた(らしい)車を運転して調布へと向かっていた。
新宿を出るところで襲われて、変なことから仲間になったサドとアーテルは少しずつ話して情報交換をしていた。
聞くところによると人間は敵、と伝えてきたのは付喪神で「この荒廃した世界は人間のせいである」と伝えられたらしい。人間側からしたら君たちだと思うのだが……なんて思ったがアーテルは黙っておいた。
そしてサドは何故あそこにいたのか、と聞いたらガソリンを補給してた。だそうだ。サドはその教えてくれた付喪神と一緒に行くのではなく、バラバラになって人間を倒す方がいいだろう、という結論に至り車で人間を探し回っていたらしい。
「お、お前みたいに一心に俺を見つめてきたのはお前が初めて……だ、からって信頼はしてないからな!」
ぷい!と横を向かれたからか車が横の石垣にこすれてがりがりと音をたてた。
「うーん、皆逃げてたりしてたんだろうなあ……」
お亡くなりになった方は気の毒だが、そのおかげで初めての仲間ができてとても嬉しい。
「まあ仲間ができたのうれしーし!沢山お話しような!」
「お、お話……?!え、将来の!?」
ボッと顔が赤くなったと思ったら車が今度は大きなじゃりじゃりと大きな音をたてた。サドは運転が苦手なのかもしれない。
「びっくりしたあ、運転苦手なのか?」
「苦手というか、運転の仕方を詳しくは知らないからな」
今、衝撃的なことを言わなかったか?と目を真ん丸にするアーテルを横目にサドは付け加える。
「自分の主人が運転してた仕方しか知らないんだ。しっかり見えていたか?というと疑問だし……」
「ああ~……ん!そういえばお前は何の付喪神なんだ?車とか?」
「ん?俺は……時計、だな」
「時計~?ふーん、なんか成金っぽいと思った~」
「成金……?」
成金という言葉に疑問を持ったようで聞き返してきた。
「お金持ちみたいってこと!」
「お金持ち、かあ……うちの主人も金持ちだったな……」
「へえ~、覚えてるもんなの?」
「もちろんだ!俺は主人に感謝を持って生まれたんだ」
「え、人間にいい思いを持ってたのに敵って思ってたって事?」
「うーむ、説明が難しいというか……って顔が近いッ!向こういけッ!」
「いや、向こう行けはむ……いってェ!」
ばし、と叩かれてナイフで貫かれた身体は悲鳴をあげる、切れた繊維は繋がりにくいのだ。というか、まだ戦いが終わってから数十分しか経ってないんだから治ってるわけがない。
「せ、説明してやるからそっち向いてろよッ!」
「た、たた……わかったよ」
傷薬を飲んでも全然効果が表れないのでおとなしく言うことを聞くことにする。
「そりゃ、元々人間に感謝を持って生まれたけど、目の前で主人が殺されたんだ」
そう一言発するとぽつりぽつりとサドは過去の話をしてくれる。
主人が目の前に付喪神に殺されたらしく、その付喪神には逃げられてしまったのだが悲しみにくれ、争いの時に身を置いて過ごしている時に別の付喪神に出会う。なぜか仲良くなり話してるうちに自身の主人の話をするとその付喪神が「人間は敵なのだ、この争いを始めたのも人間だ。その人間たちのせいで主人は殺されたも同義だ」と教えられたらしい。
そこまで話し終えるとふう、と細く息を吐いてアーテルに問う。
「どう思う?」
「……どう思うって、何が?」
「俺が人間に対して恨みを持ってることの理由だよ。逆恨みだと言うか?」
「うーん……」
アーテルは少し考えこむ顔をする、サドは怯えていた。特別な感情をぶつけてくれた(と思っている)アーテルに幻滅をされたら苦しい、けれどいい言葉を投げかけられても自分の心のもやは晴れる気がしない。この面倒な気持ちと人間は付き合えているというから不思議だ。なんてサドは考えながらアーテルを見つめる、すると急にこちらを向くので恥ずかしくなり顔をそむけた。
「どーでもいい、かなあ」
「ど、どうでもいい……?」
「恨みなんてそんなもんじゃね~かな。それで逆恨みになるなら世の中逆恨みしかね~よ!」
にっ、と笑うアーテルはサドには眩しい。アーテルは俺も過去も教えてあげるよ。とはきはきと過去をサドに伝える。
両親が付喪神に殺されたこと、付喪神に殺されかけることが多いこと。出会った友達の顔の記憶が思い出せないこと。
「……ってな感じかなあ」
「それは、その……恨んでないのか?付喪神の事」
「ん?うーん」
そう聞かれて悩んでいるアーテルを見る。恨んでないのか?という疑問に即答しないアーテルに不思議に思う、自分は即恨んだ。心が狭いと思われないだろうか、とひっそりと心配する。
「恨んだ、と言うよりはこれからどうしよう。の方が強かったかも。信頼できる両親がいなくなってどうやって生きていこう、って思った方が強かったかなァ……なあ、おれの事薄情な奴だと思ったか?」
そうアーテルはサドに問いかける、サドは素直に言っていいのか、嘘をついた方がいいのか悩んで返答に困っているようだった。
「な!困るだろ。自分の事どう思った?なんて知っちゃこっちゃねえんだからさァ」
「そ、そういう感じ……の困りでは無かったんだ、けど……すまん」
いーよー、とアーテルは返事をして助手席を倒して寝転ぶ。
「ふああァ……おれ、眠たいから寝るな!頼んだ!」
驚いてるサドを置いて眠りにつこうと自分の制服を被って深呼吸をして眠る準備をする。
アーテルは疲れていたのかすぐに土に還る用意をしているかのように眠ってしまった。サドはアーテルの人柄に少し、本当に少しだが昔目の前で亡くした主人を思い出していた。自分の主人は悪い人じゃなかったし商談のほかに株というものをやっていたからか生活に不自由は無かったようだ。自分のような時計を買っていたのも証拠だと思うのだが、とても主人は優しかったことを思い出す。いや、優しいというか物を大切にする性分だったというのが正しいか。人間に対しての行為は知らない。主人も毎晩サドを外すときに「一日の振り返り」をしていたのだが、サドをふかふかのクッションに置いて一日の振り返りをする。「今日はタキザワの態度が悪かった」「理不尽に思える八つ当たりをしてきたミソサキ」とか九割九分愚痴なのだが最後に毎回必ず「でも、あいつらのおかげでこういうのは相手が困るってわかった。俺の知識にするんだ、ほかの人を困らせないで甘い蜜を吸ってやる……」と、決意を募らせてから眠っていたのだった。自分の主人は正直誇らしい。何年も使われたにしてはサドは綺麗だし、他に付喪神になるくらい大事に一緒に居た仲間も感謝を告げていた。どちらも人間に恨みを抱いているというわけでは無くて、付喪神に愛する主人を殺されてその原因で或る人間を……ん?ここでサドは気が付く。その原因があったとして行動を移すのは付喪神なのだからもしかして俺が倒すべきは付喪神なのではないか……?と気が付いてしまった、そうか。恨むべきは付喪神だったのか。信頼してないんだからなッ!というのは先ほどで最後になりそうだ。これならアーテルと恋仲になっても……とサドは考えてかぶりをふる、それはそれで俺は物、アーテルは人。結ばれない運命なのだ。でも、アーテルと一緒ならその壁さえも追い抜かせる自信が出てきた。しかし、その考えはサドの考えを加速させていく。顔が真っ赤になったサドは顔を覚まそうとぐんぐんと車のスピードを上げていく。アーテルの悲鳴が響くのはそう遅くは無かった。
武神達の宿命を @neeto0210_21
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