第6話 新宿

【新宿】


 池袋の自転車屋からかっこいい赤い自転車を拝借してからよみうりランドへ向かう。どこかの途中で休憩して、次の日によみうりランドに到着したい。

 個人的な目標は乗り換えの記憶がある調布だ、でもそれまでに八駅くらいあったような……気がする。っていうか池袋駅で確認するべきだったな。次に駅を見つけたらメモしておこう。まず新宿へと足を運ぶ、歩いて一時間くらいだった気がするから自転車で三十分くらいか。新宿から京王線橋本方面へ向かうのだ。

 まあまあ坂があったりして面倒くさかったがなんとか新宿にはついた。相変わらず道は狭いな……とアーテルは思う。アーテルは不謹慎であるがあんなに混雑している新宿駅がこんなに空いてくれるなら反逆も悪くは無かったのかも、なんて一部界隈からコテンパンにされそうだ。というか都市とかを作る方が悪い!新宿に集まる人間を恨むのはお角違いか。

 久しぶりに新宿駅を見る、ここは果てしなく迷宮で、いくら何度来ても間違えた記憶がある。友人についていくばかりだった彼には当たり前かもしれないが。

 ここから調布へ向かうには京王線を渡りたいのだが京王線は地下を通っていなかっただろうか?とぽつりと思い出す。それならもしかして……ガタガタするだろうけど線路を渡っていった方がいいだろうか。うーんでもそれなら歩いた方が……と悩む。電車だからニ十分くらいで調布へ到着できるが徒歩だとニ十分は三時間くらい歩く。自転車で半分くらい、一時間半くらいだろうか……それは結構変わる。でも地上を通っていくのは道が分からないと難しいだろう……うーん。と悩み、一つの結論へとたどり着く。道路標識を頼りに向かおう、それだ!駅が繋がってるなら道路だってつながっている。今は車が通ってないから自転車で道路の真ん中を堂々と突っ切っても怒られないであろう。

 新宿駅の分かる範囲の探検をして欲しいものをとってきた。転がってた食料と包帯もラッキーなことにあった。他に少し着やすそうな服に着替えて(体操服が破れてしまったから)を自転車に詰め込めるだけ詰め込んだ。かっこいい自転車は後ろに小さい荷台もあるので箱を見つけて入れてそこに見つけた食料、前のかごにキャリーケースを投げ込み、刀を背にして自転車をこぎ出す。標識、何に役立っているのだろう。と思っていたけど意外と役立っているんだな……とぽつりと思う。トラックを運転する人などには大事なのだろうが、車に乗らないアーテルは「地震が起きたら落ちてきて危なそう」くらいの感想だった。

 ふと不思議に思ったのだが、高速道路を通れば早いんだろうか?高速道路は信号の数を減らしてる……感じなのと、橋みたいにしている感じだった気がするのでそっちのほうがいいのかも。と思うが正直恐れ多い。どこにどう行くか分からないし、それなら時間が掛かってもいいから下町を通る方がいい気がする。

 そう思いチャリをさっそうと飛ばす、足が長い方なので身長が小さいが進む速度には申し分ない。

 新宿を出ようとしたあたりだろうか、疲れてはいないが少し水分補給をしようと自販機の近くに自転車を停めた。自販機を蹴飛ばしてがこがこと音が鳴るが出てこない。めんどくさいので鍵のあたりを鍵のあたりを刀で傷つけてあける。便利な方法で助かる、水が飲みたいので水を取り出して数本自分の後ろのかごに詰め込む。欲張りすぎても重たすぎて動けなくなるので、戻ってきた時用に覚えておこう。__アーテルがそう言って覚えていたことは無いのだが__水分補給をして一息つく、スコードと戦った以降は付喪神に出会っていないので最近は平和だ。確かに衝撃的なことが多かったが肉体的疲労は少ない。ふとアーテルは考える、もし遊園地についたとたんに付喪神と争うことになったときに疲れていたら負ける気がする。……ゆっくり行くべきだろうな、と急いで行こうとしていた自分に静止をかける。こう考えることも大切だね。

 そうぽつりと考えたことが消えていくときに何かが動く音がした。鳩かないかだろうか、と思っていたがそんな希望は打ちひしがれた。

 アーテルは右腹部に違和感を感じる、ぬるりとした感覚から何が起きたのか全く分からず、脳が混乱をする。そして気が付く。痛みがじんじんとしてくる、恐ろしさから覗くことは避けたかったのだがそうもいかない。じんじんとした痛みの正体を掴むために恐る恐る腹部の右側を瞳だけを動かして覗く。

 __アーテルの腹部は真っ赤に染まっており、その先にはナイフのようなものが突き刺さっていた。そして、今そのナイフは上側に動こうとしている。

 アーテルは瞬時に考える、上側に来るのも危ないけれども、これは抜かれた方が危ないのでは。そう思い刀を抜く前に後ろに倒れ込み、後ろにいるであろう敵を下敷きにするためだ。しかしその目論見は外れ、じゃり、と移動する音がしたと思ったのだがその通りであった。横に自分を刺したであろう__付喪神がいた。

 その付喪神の見た目は髪の毛の色は青がかった黒髪、腰辺りまでのストレートヘア、ぱっつりと切られた前髪と髪先は清潔さが感じられる。頭には金色の髪留めがついていて、すっきりとまとまっている。しかし、真っ黒な瞳が恐ろしさを醸し出していた。伏目なのも関係しているだろうか。身長はアーテルより幾分か高いが、平均的だろう。服装は暗い色の紫色のピシりとしたスーツで白いネクタイ。ヒールの高い乳白色のとんがったブーツが高級感を醸しだしている。手には高そうな腕時計をはめており、酷い言い方をすれば成金にみえる。

「くそッ、はあ……はあ……」

「お前、人間だろ。人間は敵だと聞いたぞ!」

「うわッ。猪突猛進タイプかよ……嫌いじゃねえけど……」

 突き刺さったナイフがどくどくと血を流す手伝いをしている。でも抜いた方が危ない気がするので痛みに耐えつつそのまま動くことにする。そしてナイフの事を確認する、先から黒い靄がこぼれているのでこれは付喪神の武器であることは間違いないだろう。アーテルの血で染まっているが黒い刃でよく切れるようだ。

 ここにある武器があの付喪神のすべてなのだろうか?疑いつつ立ち上がって距離をとる。

「付喪神、なんで攻撃してきたか、一応聞いていいか?」

「人間と話すことなんてない!敵なんだろ!」

 なかなか興奮しているようでこちらの会話を落ち着いて聞いてくれる感じではないようだ。話を聞かない相手程面倒なものはない。周りを見渡して確認してみたがここら辺は見渡しがよく、付喪神の仲間は他にはいないようだ。とにかくあの黒髪付喪神をどうにかすれば自転車の上に乗ることが再開できるだろう。

 後ろを向いて逃げるのは危ないと判断し、刀を抜いて黒髪付喪神に剣先を向ける、おびえたような顔をするのではなくそっと二本目のナイフを取り出した。

 まじか、複数持ちかよ。とアーテルは少し焦る、何本持っているかによるがこの切れ味のナイフが身体に何本も突き刺さったら……この先は容易に想像できる。

 投げ飛ばしてきたナイフを刀で跳ね飛ばす、カツンと小気味いい音がした、何本か飛ばしてくるがスピード自体は遅い。このナイフの切れ味にさえ怯えなければ大丈夫なのかもしれない。刀を振りかざすように走って黒髪付喪神の服を切り刻もうと向かう。どこに宝石があるのだろうか、まだ先は長いので体力を温存しておきたい気持ちに習い服を切り裂くように向かう。

 付喪神はびっくりしたようで伏せている眼をカッと見開いて後ろへと飛び避ける。

「う、うう……なんなんだ人間……!」

 何か分からないが頬を高揚させている……ようにみえる。人間を倒すことに性癖があるのか……?なんて血の巡りが悪くなっている脳で考える。走ったせいだろうか、血の出が激しく、抜いても大差がないように見える。避けられて遠くへ行かれたので急いでナイフを抜く、抜いた感覚はぬめりとした感覚でしかわからず、肉の切れた感覚はしない。これは……切れ味がよすぎて自分の肉が切られているのが分からないのだろうと、アーテルは察する。だから自販機で水を飲んでいる時に痛みがじんじんと来た感覚はあっても、ぶちぶちと肉が切れる感覚がしなかったのだと。

 しかし、切れ味がよすぎて抜くときに自分の肉を少し切りこんだようで出血がひどくなる。失敗だったか。

 しかし、逃げるよりは戦って勝った方が安全だと思い、服をまた切り込もうと走りだす。

 すると黒髪付喪神は焦ったような顔をしてアーテルの後ろからナイフを引き寄せる。気が付かないアーテルの腕にナイフが突き刺さるが構わずに刀を振りかざした。すると、もっと焦ったような付喪神が声をかけてくる。

「も、もう!なんなんだよ、そんな一途に見つめてくるなよッ!」

 何かを勘違いしているのかアーテルには理解できないことを口走る。

「そりゃ見つめるだろ!戦ってんだぞ!」

「う、おお……そりゃそうだけど……!」

 くっそ、という顔をしながらナイフをまた取り出す、取り出したナイフをよく見ると手持ち部分は紫色で、黒い刃。とてもかっこいい、自分に突き刺さることは抜きにして。

 刀をナイフではぐらかされて、もう片方の手でナイフを自身の腕に突き刺してくる。腕には計二本のナイフが刺さっており、痛みはまだゆっくりと近寄ってくるがまだ大丈夫だ、とアーテルは自分を奮い立たせた。

「なんか、戦い以外の、目をしてる気がする……!」

「はあ?」

 ナイフは何本あるんだろう、もしかして無限大なのだろうか……とアーテルは怯える。完璧に避けきれるかどうかと言えば避けきれないし、痛みがないとはいえこのナイフは危ない。切れ味が良すぎるからこそ痛くないのだ、恐れ多い。

 今度は腹部にナイフを突き刺しに来る、避けきれないが今度はしっかり服を切り刻むことが出来そうだ。左手が自身の腹部__今度は反対側__を突き刺してきた時に刀の刃をスライドさせて黒髪付喪神の胸元を切り刻む、悲しいことに切り裂けた胸元には宝石は埋まっていなかった。白い胸板が垣間見えた、付喪神には背別が無いのだろうか?それともただ男性にばかり当たっているだけなのだろうか……

「わー!?」

 悲鳴を上げたと思ったら後ろに素早く逃げる、顔がまた赤い。そこにアーテルは不安になる、真っ赤すぎて自分の返り血ではないのか、と不安になったのである。

 しかし自分の身体に刺さったナイフは腕と腹部のみ、痛くはあるがほかに怪我をしているようなところは見受けられない。

「やっぱそういう目で見てるのか……!?人間なのに?結ばれない運命なのにッ……!」

「んも~さっきから何言ってんだよ!宝石を探すためだよ!」

「ほ、宝石!?指輪!?」

 やはり何を言っているか分からないのでアーテルは頭をひねる。血が出ているので早く供養してあげたいのだが。

「何言ってんだ?あれ、お前って付喪神なんだよな……?」

「そうに決まってるだろ!俺の名前はサド。お、お前は……?」

 少し照れ臭そうに聞いてくる、確かに黒髪の付喪神、と考えるのは長かったから聞けて有難い。

「おれはアーテル。お前は誰から人間が敵だって聞いたんだ?」

「それは……知らない。通りすがりの付喪神が教えてくれただけで誰とは……」

「そっか、じゃあ証拠とかあるのか?」

「証拠?」

 何度もナイフで刺されたらたまらないのでアーテルは作戦を変える、付喪神の仲間が欲しいと思っていたので仲間にならないかと誘ってみることにするのだ。

「そうそう、人間が敵の理由があるのか?明白な」

「そう、言われたら、ない」

 サドは何か悩んでいる模様だ。確証的な証拠がないからそう言われて不安になったのだろう、根は良い付喪神……というか、敵だと聞かされたから倒す!という意識に移ったのだろうと察する。

「ちなみにどんな敵だって言われたんだ?」

「……お前に言う筋合いは無い!そうやって油断させる魂胆だろ!」

 そういう魂胆では無かったのだが変に勘繰られてしまったようだ、自分がどのように噂されているのか気になる。と思っているアーテルだが難しそうなので諦めてまた攻撃をする準備をする。

 ……が、ナイフがこちらに当たってきそうな雰囲気はしない。というか横を掠ってどこかに飛んでいく。

 なにか考えがあるのかもしれないとアーテルは警戒をする、飛んで行ったナイフの先を見つつまたサドの身体にある宝石を見つけるために切りかかりにかかる。サド相手ならば、説得させる方法も取れるかもしれないが、サドが話してくれないなら仕方がないだろう。

 しかしずっとナイフを当てようとするのではなく、掠めてくる。切れ味がよすぎて自分に擦り傷くらいはできているかもしれないけど、ずきりと突き刺さる感覚はしない。

 というか何本あるんだ?と不思議に思うとサドが声をあげた。

「わー!やっぱり無理だ、そんなに見つめてくるな!」

「はあ!?」

 またよく分からない、不思議に思う事ばかりだ。

「な、なんか人間の癖に俺を見つめてきやがって……気があるのか……?」

 なにかぽつぽつと呟いて何か悩んでいる顔をしている、しかし、なにか思い切ってナイフを全て手元に持ち込んだ。

「よ、し……俺が好きならこれくらい避けられるだろ!」

「ん?好きってな……」

 アーテルが疑問を聞こうとすると十本のナイフがこちらに向けて投げられる。素早い動きのためすべては避けきれないが何本か刀で跳ね返す、投げられたのに意外と重たい力で、完璧に跳ね返せたか、と言われると微妙で自身の腕付近や身体付近に落ちては自身の着ている服をすぱすぱと切り裂いていった。

「もう、質問してるときに攻撃してくんなよ!仮面ライダーとか特撮とか見た事ないのかよッ」

 そう言いつつサドに向かって近づいていく、今度は胸元ではなく、足元を目指して走る。

「なんだそれ、知らないッ……!」

 ふん!と横を向いているうちに隙が生まれたので急いで両足の服を切る、見つけた。

 左足の脛に明るい色の紫色の丸い宝石が埋め込まれている。キラキラと輝いてきれいだが、これを壊さなければいけない。

 急いで貫こうと刀を振りかざそうとしたときに目がバシ、と合い、電流が走ったかのように止まる。するとサドはアーテルを突き飛ばす、アーテルはしりもちを着いたので逃げられないと悟り、ナイフを取りだすのかと思い、頭を切り落とされないように頭をかばう。……が行動が起きない。恐る恐る目を開けてサドの方を見てみると腕を組んで恥ずかしそうにアーテルを見下ろしている。

「わかった。ふ、ふん!よく聞けよ!」

「何が分かったのかわかんねえ……」

「と、友達から始めよう!確かに人間が敵、っていうのを鵜呑みにしたのも悪かったし、そ……そんな熱心に気持ちをぶつけられたら答えないわけにも……」

 なんてうにょうにょとこちらに向けて何かを話してくる。よく分からないが敵意は無いという理解に落ち着いてアーテルは刀を仕舞う、サドもナイフを仕舞ってこちらを向かずにではあるが友好的のようだ。

「……で、あって別にお前を敵じゃないなんて思ってないからな!」

「んー……とにかく、今戦うのはやめてくれるって事で、一時的な友達になってくれるって事だよな?」

 アーテルなりに分かったことを伝えてみるとポリポリと頬を掻きながらサドはこくりと頷く。

 アーテルは理解すると同時に嬉しさのあまり満面の笑みになる、つまりは仲間になってくれる。ということだ。

「やッッたー!」

 嬉しさのあまり血だらけの身体でサドに抱き着く、やっと付喪神ではあるが仲間が見つかったのだ。物凄く嬉しい、よく分からない出会いではあったがアーテルにとっては良い出会いである。

「わー!くっついてくるな!まだ友達なんだから!」

 サドはぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるがアーテルは力強く離そうとしない、意外とサドは力が弱いようでアーテルが抱きしめると動けなくなる。……それはアーテルが強すぎるのか、はたまた……

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