第2話 初⭐︎大周り 小山〜大宮〜高崎編 2
大宮に到着して高崎線が遅延しているという情報だけはなんとか頭に入ったが、前の電車が遅延すれば後の電車も遅延するという発想ができないほどくたびれきっていた。
8番線のクソ寒いホームで、後ろのカップルの「I see! I see!」という英語混じりのどこかの国の言葉と、靴下まで学校指定と思しき幼い男の子たちが漆黒のランドセルを背負って「英語の点数がぁ」と母親にスマホで連絡しているのをぼんやりして見ていた。異国に来たかのような賑やかさと無関心さ。どこから来てどこへ行くのかも特定されない人のなかで放心して、線路に落ちた雑誌をぼーっと見ていた。わたしの精神世界で限りなく死に近かった。4分遅れたことを詫びる電車が滑り込んできて、無事、座席に座ると少ないバッテリーのなか「嫌なら自分が変わるしかない」とメモに一気に書きつけた。攻殻みてえだわと一瞬思った。そして、30%台のバッテリーを見て、ポケットにしまった。大事なものは財布も、鍵も、スマホも全部ポケットに入れていた。
前寄り5両が途中駅で切り離されるヒヤヒヤ(乗ったところが切り離しに当たった)したのも、学生時代、帰宅ラッシュに巻き込まれて長蛇の列に並んで待ち続けた同じ高崎行きの電車を思い出した。多くのサラリーマンが誰も文句も言わず、ただ並んでいるなか、わたしも最後尾にこれは途中で切り離されないだろうか? と不安になりながら並んだのだ。
降りる200円の駅で、窓口に切符を見せて緊張で顔が赤くなりながら「大周りをしました。ルートは……」と説明して、物珍しいのか説明もしてくれてヨロヨロと一駅歩いた。
折り合いがつかない自分と折り合いをつけられるようになるのが旅なのか、リフレッシュするのが旅なのか。
唯一わかったのは、旅は行きて帰し物語だということだ。
昨日と今日がばっきり切断されて非日常に行く。そして日常に戻ってくる。
帰宅して「めっちゃマイ・ブロークン・マリコだわ」と笑った。Amazonは無事届いて、ティファールの電気ケトルの偉大さに感動した。
今日も昨日も明日もたぶん続くだろう日常のなかで、この旅は精神のきらめきを放っている。
小山〜大宮〜高崎編 完
補足 今回かかった費用は運賃込み1500円くらいでした。たぶん、このくらいで旅行ができます。
必殺JR大周り一人旅 三日月理音 @mikazuki_2023
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