必殺JR大周り一人旅
三日月理音
第1話 初⭐︎大周り 小山〜大宮〜高崎編 1
無職になるとすることがない。
療養というわけで、この頃頻繁する地震が怖くてAmazonで防災グッズだって買ったし、生活品質向上のためのあれこれを買ってもそういう時期は過ぎたようで、とくに気分はあがらない。お試しで普段まったく買わない宝くじまで買ってみたが、当たったのは400円。なにしてんだ。ロト7もスクラッチもわたしを救わない!! 食べ歩きだってしたし、楽天スーパーセールでデジタルチケットだって物珍しさで買ってみた! ああ、しかし、なにをしてもはまらない。つまらなくて死にかけてる。
そういうときは! 旅!
先日、軽井沢まで国道18号を延々行ったが、お金がかかる。まあ、そりゃあ、あれこれ買うからな。ご飯とか。
で。
本日も朝も早よから起き出して家の掃除までしてしまったものの時間を見ると10時前……
これからわたしはどうやって暇を潰せばいいのだろうか? コメダ珈琲には昨日行ったし……としこたま悩んだ。することが本当になく、別に向き合いたくない自分とがっぷりよつになりかける。
解:マジ無理なんですが。
解2:そして、もう、必要経費と生活品質向上のためと言い訳をするお金は使いたくない!!!
調べた!
これ読んでる人がいたら調べて欲しいが「自分の住んでる駅から片道500円」と検索かけたら「都内に130円でいけます。大周りです」とある。2013年くらいの知恵袋。なんぞ? と思い、「JR 大周り」で再度検索。ごく簡単にいうと「大都市圏のJRで始発駅と終着駅を自分で設定し、一筆書きのルートで一切後戻りできず、一切改札を出ない」のが「大周り」。
大周り初回を終わったのでこうわかったように言えるが、調べてもよくわからないまま財布とスマホとクレカをひっつかんで駅に向かった。防寒対策すら忘れた。
とりあえず200円で都内に行ければいいや! という考えの浅はかさを8時間後に自宅で噛み締めている。(後述)
ここまでが前振り。大丈夫? ついてこらられてる??
最寄り駅はほぼ無人でなにかあったらインターフォンをとある。躊躇なく押して「大周りをしたいのですが」と言った。
もう一度繰り返すが、この時点でまったく意味はわかってない。ただ、都内に格安で行って憂さ晴らしをしたい。それだけ。
「始発はここの駅になりますが、終着駅はどこにしてますか?」
「えーと……いろいろ行きたいので、◯◯駅で!」
「あの……改札とか出られないですよ」
「大丈夫です!(駅構内だって都内だ!)」
「では、始発と終着の間の料金の切符を買ってください」
というわけで、200円の切符を買った。
さあ! 行くぞ! 都内!
……1時間半かけて小山まで行く羽目になった。一筆書きルールが適応されるためである。あれ? とは思った。あれ? こんなに時間かかるなら都内まで無理じゃね? あれ? ちょっと到着時間見ようか? 今、10時過ぎで小山到着12半過ぎるが?!?! そこから都内までどうやってでるの?!
それまで緊張と見知らぬ土地にガクガクしながらも雨にけぶる山を見て綺麗だなぁとうるうるしたり、しみじみとあれこれ思い出してメモに書きつけていたが、この時間の感覚で我に返った。
ちょっと! 路線図見ようか! はい、一筆書きで今の時間から都内行くの無理だろ!
そこからもう旅程の設定し直しが始まった。無理無理無理! この時間で行って帰って……と一筆書き特有の無理ゲーが炸裂した。結論から言うと、都内に行きたければ始発あたりに乗るしかない。始発で乗って、かなり遅い時間に帰ってくる。
このへんが醍醐味でもあるのだが、リスケリスケでまったく予定通りに行かないのがめちゃくちゃ面白い。車やバイクなら思い通りにコンビニによったりできるが、公共機関なのでこちらの予定は完璧に無視される。今回は遅延があった。乗りたいなら待つか早く行くしかない。慌てて乗り込むのも楽しいし、待ってもいい。
しかし、こう、都内、今日、無理だな! とあっさり諦められるのもいいもので、窓からの風景を楽しみにしてみていた。田舎というより鄙びてるところを抜け、住宅街になり、乱立する高層マンションのみな同じ顔のドアを見上げたときには感慨深いものがあった。
このなかのどれかをちゃんとわかる生活と暮らし。そして人。このみんなおんなじにみえるものを固有のものとして捉えていける不思議さ。わたしだってそうだろうなぁ。このどれかに住んでたらこの部屋が好きなんだろうなぁ。いやぁ、面白い。人って不思議。
途中、メールが来て、Amazonの荷物が届くからあれこれとのこと。
わたし、帰ってこられるのか?! いやそら帰るが! 大周りは当日のみだからだけどもねぇ……帰れないということはあるのか?
我が采配は完璧であったようで、初見のはずの小山駅構内で駅員さんをとっ捕まえて「大宮行きたいです! 大周り中です!」と聞いたら12番線の宇都宮線に乗ればどれでも大宮行くよとのこと。存在がありがとうの構内コンビニNewDaysで、いつもならおにぎり買うところを緊張と不安で日和ったサンドイッチとヨーグルッペしか買えない。買ってもどこで食べていいのかわからず、時間も把握してないし(スマホの充電が59%しかなく、わたしは腕時計をしない人間であった。そしてわたしも自分縛りで金は使わないと決めていたのでバッテリーは買わないと決定していた)ただひたすら12番線に立ち続けボロボロこぼれてくるサンドイッチを無理やり口に押し込んだ。
すごい不安で孤独だった。
何してるのかわからないのだが、とりあえずわたしは大宮に出ねばならない。大宮に出れば帰るルートはわかる。帰らないとな!!
話が前後するが、わたしのなかの旅程というのは基本が車移動で柔軟に動けるし、実家住まいのルーズさでちょっとした資金もあったし、謎の彼氏ができて謎のフェイドアウトした失踪疑いがある幽けき友人を連れての二人旅だったもので、こういった突破貧乏単独旅行というのは経験がない。
経験がないのだが、行くときは行ってしまうのがわたしという人間で、そうしないと旅ができないようになっているらしい。ことごとくイベント運がないのだ。水星の魔女のチケットに当たろうが、クロノ・トリガーのコンサートに当選しようが、なぜかどうしても行けなかった。謎なのだ。
要はあまり考えてない。面倒なので。考えても仕方ないことをごまんと考えるわりにはこういうことはまったく頓着しない。日本だしな! くらいの感覚でいるのだが、それでも辛くて半べそをかいていた。いい大人なのに。
知らない街の知らない駅構内で、どーしよーかー……と思いながらヨーグルッペを一気飲みしてもう一本自販機で買った。
ここで「このまま同じルートを辿って帰るか!」という選択肢はまったくなかった。金がすごくかかる! 午前中に見た小山行きの金額にわたしは渋ったほどだった。無駄に高い。が、そのときはまったく考えておらず、ひたすら200円の効果を最大限に発揮する方法を考えていた。
ローリスク投資ハイリターン希望で、絶対に投資はしてはいけない人間なのだ。希望を叶えるためにバグってもいいからやるという人なので、しょっちゅう体を壊して倒れていた。押さえるポイントがおかしいのだ。狂ってんなと我ながら思う。そらアウトローの道をいくし、賢い弟から「姉貴はおかしい! 目的と手段が逆転してる!」と指摘されている。書くと客観性を持てるが、頭で考えるとコスパと最短ルートばかり考えている。そのとき考えていたのは「このルートを通ってわたしは帰る!」のみであった。大宮に行き、高崎に出る! しか考えてない。
さあ、電車が来た! 乗ろう!
この辺から気が抜け始めた。
大宮出るしね。
やれやれ……
が。
ここからさらに大宮まで1時間ほどかかることになるとは思いもよらなかった……
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