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「私で、つとまるでしょうか?」

「ああ。普段から君の仕事ぶりを見ていて、高く評価していた。仕事も丁寧だし、気がきいて先回りで行動ができる。各課との連携がスムーズに進められるのは、君の力が大きいと私は判断した。ぜひ本社で、私の秘書として働いてほしい」

「課長の秘書? ですか?」

 本社付きの秘書なんて、今の仕事からしたら大出世だ。けど、秘書なんてやったこともないし、そんな大役つとまるだろうか。

 とはいえ、仕事が評価されて本社勤務に選ばれるのは、すごく嬉しい。それに、課長ともっと仕事ができるとなれば、きっとやりがいはある。やってみたい。

「秘書とは言っても、今の仕事とそれほど変わるわけじゃない。庶務の延長と思ってくれていい」

 緊張をほぐすような課長の笑顔に、私はうなずいた。

「わかりました。微力ながら、尽力させていただきます」

「俺の秘書でもあるんだからな」

 なぜか不機嫌な顔で、久遠が食い気味に口を挟んだ。

「いきなり二人は無理よ」

「二人と言うか、お前はチームの秘書的立場になるから、どっちでも同じことだ。ちなみに、タカヤとフミヤも本社にいるぞ? ラグバは、ベガの仲間で面白半分に始めたRAG-BAG(寄せ集め)だからな」

「ええ? そうなんだ!」

 じゃあ、もしかして本社にいたら、タカヤにも会うことがあるかも?

「ああ、それと」

 に、と久遠は笑った。

「ラグバのことを知ってるのはごく一部だけだから、俺たちのことは会社でももちろんナイショで、な」

 そう言って口元に人差し指を立てると、きれいにウィンクを決めて見せた。

 う。そういう仕草も慣れているのか……かっこいいじゃない。不覚にもときめいてしまった。

「それも知っているんだね」

 私たちの会話を聞いていた課長が、少し驚いたように言った。

「水無瀬さんは、久遠とどういう知り合いなんだい?」

「えっと……」

 改めて聞かれて、言葉に詰まる。

 知り合いというか、あの、ええと、あの。昨日から付き合ってます、と正直に言った方がいいんだろうか。

 思案して、ちらりと久遠を伺う。すると、久遠はいきなり私の肩を抱いて引き寄せた。

「華は俺のだからな。手をだすなよ」

 課長が、目を丸くした。

「ということは、この間からお前が会いに行っていた女性って」

「華だよ。兄貴こそ、やけに庶務の女の事褒めてたけど、あれ華のことだったんだな」

「そりゃ……水無瀬さんは、優秀な人材だ。お前に独り占めにさせるわけにはいかないよ」

「仕事ならいくらでも頼りにしろよ。でも、けじめはつけてもらわないとな」

 やけに挑発的な久遠の口調に首をひねる。

 なんていうか、もっと恥じらいとか照れくささとかないのかな、この男は。そんな風にまるで喧嘩うっているような強い言い方しなくてもいいのに。

 課長はなにやら考え込んでいたが、顔をあげるとにこりと笑った。

「そうか。水無瀬さん、これからもいろんなつきあいになりそうだね。よろしく頼むよ」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

「俺にはよろしくはないのかよ」

 私から押しはがされた久遠が、ふてくされた顔で言った。

「真面目に仕事する久遠が想像できなくて」

「俺の有能さに驚くなよ」

「驚かせてみなさいよ」

「久遠様侮ってごめんなさいって泣かせてやる」

「それは楽しみだこと」

「仲、いいんだね」

 私たちの様子を見ていた課長が静かに言った。

「そ、そんなことないです!」

 私はあわてて否定する。

 ん? けど、私たち付き合ってるんだから、ここは彼氏のお兄さんに向かってよろしくと言うところ? でも、ここは会社だし公私混同はよくないわね。

「そうか。そんなことないんだね」

 課長は、それを聞くとにこにこして言った。

「久遠が嫌になったら、いつでも相談してくれ」

「はあ」

「むしろ、その日がくるのを楽しみにしているよ」

「兄貴」

 油断ならねえ、久遠はぶつぶつ何かつぶやいている。

 とにかく。春から久遠と一緒に、尊敬する課長と働けるんだ! それは、純粋に嬉しい。

 少しばかりの不安には目をつぶって、私はもう一度、よろしくお願いしますと二人に頭をさげた。

 



 

Fin

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