第155話 孤児院支援
Side:ロスト
「壊れた魔道具を買い取ります! 要らなくなった魔道具も買い取ります!」
俺は声を上げて街を歩いた。
誰からも声は掛からない。
俺は、あそこならと、街の外のゴミ捨て場に向かった。
そこには、壊れた家具や、色々な物が捨てられていた。
中には修理したら使えそうな物もある。
「お兄ちゃん、浮浪者?」
浮浪児から声を掛けられた。
「壊れた魔道具を探しているんだ」
「中古を買うお金もないの?」
中古の魔道具なら、いくつも買える。
ただピュアンナさんには中古の魔道具売買は目利きが必要だから、最初はやらない方が良いと言われた。
「中古の売買は難しい」
「そうなんだ。壊れたのなら難しくないの?」
「まあな。買取が安いから修理できなくても問題ではない」
「安いっていくら?」
「ひとつ大銅貨1枚ぐらいだな」
「そんな値段じゃ、誰も売らないよ。壊れた核石と溜石は粉にして材料に使うんだよ」
「知らなかった。じゃあどれぐらいなら?」
「大きさにもよるけど。だいたい、大銅貨3枚かな。魔道具のゴミは人気だから、誰もここにはめったに捨てないけどね」
「となると、魔道具職人も壊れた魔道具や核石は売ってくれないな」
うん、厳しいな。
どうやったら、壊れた魔道具を手に入れられるだろう。
街に戻り考える。
その時、浮浪児や浮浪者にパンを配っている女の子がいた。
お金を取っている感じではない。
パンを貰った人は、名前を名簿に書くだけ。
何の意味があるんだろう。
「ええと、パンはただで配っているの?」
「ただじゃないよ。親切投資、10倍にして返してもらうの」
「返さない人がほとんどだろう」
「うん、けどいいの。10人に1人でも返してくれたら、元が取れる」
そんな、考えもあるのか。
ええと、これを捻って俺も出来ないかな。
壊れた魔道具を修理して無料で貸す。
10人に1人が、10倍払ってくれたらいい。
だめだ、浮浪児や浮浪者は魔道具なんか求めてない。
一般の人にただで貸しても大して感謝はされないだろう。
それに、壊れた魔道具が集まらない問題が解決されてない。
いっそのこと、慈善事業を名乗るか。
壊れた魔道具を寄付してくれたら、恵まれない人が助かりますみたいな。
でもそれって詐欺がやる手口だよな。
俺の信用度なんてゼロだ。
詐欺師だと思われるのが落ちだろうな。
俺が孤児院に行くと、院長は温かく迎えてくれた。
「あの、孤児院で壊れた魔道具を集めませんか。俺がそれを適正価格で買い取ります」
「孤児院には裕福な方が支援して下さります。きっと魔道具もたくさん使っているでしょうから、寄付頂けると思います」
やった!
だけど、俺は孤児院の信用を利用しただけだ。
このままだと最低野郎になる。
最低野郎にならないためにも、修理した魔道具の一部はただで孤児院に使ってもらおう。
そして、修理した魔道具は孤児院を支援している人に少し割高で貸し出したり、売りつけよう。
孤児院をどっぷり利用しているな。
最低野郎な俺が嫌になる。
でも俺も他人を救う前に自分を救わなきゃならない。
親切投資だ。
俺は孤児院から親切投資を受ける。
いずれ10倍に返してやるさ。
他の孤児院でも同じ話をした。
どこも壊れた魔道具を集めるから買い取ってくれと言われた。
魔道具ギルドに戻る。
「ピュアンナさん、依頼を出し直したい」
「別に良いけど」
「一文を加えるだけだ。お売り頂いた核石は孤児院支援に使われますって」
「詐欺みたいね。許可は取ったの?」
「いや、でもこれぐらいしないと。俺、思ったんだ。善意に甘えても、いずれ返せば最低野郎じゃないって」
「そう、契約魔法するなら、許可してあげる」
孤児院を利用するのだから、俺も何か差し出さないと。
たしかに契約魔法なら金は掛からない。
いま差し出せるのはそれぐらいだから。
「ああ、すっぱりやってくれ」
魔道具ギルドお抱えの契約魔法使いに契約魔法を掛けられた。
俺は利益の一部を孤児院に使わないと死ぬ体になった。
それぐらいの覚悟はある。
その日のうちに孤児院に壊れた魔道具が集まった。
査定なんて出来ないから、院長の言い値を払う。
ただどこの孤児院でも同じような値段だったから、相場なんだろう。
壊れた魔道具は手に入れた。
後は修理してもらうだけだ。
シナグルという職人に指名依頼を出す。
収益の一部は孤児院の支援に充てられますって書いて。
「あれを出したのはお前か。聞いたぞ。契約魔法をしたんだってな」
「はい」
シナグルという職人はこちらのことなど全部見通していそうだ。
「いいだろう。魔道具を格安で直してやる」
大儲けだが、俺って善意に甘えているんだよな。
まだ最低野郎から抜け出してはいない。
できた魔道具を貸し出したら売ったりして、利益の一部を孤児院に渡す。
それができて、初めて最低野郎から一歩抜け出せる。
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