第156話 善意に生かされる

Side:ロスト


「壊れた魔道具を買い取ります! 要らなくなった魔道具も買い取ります!」


 空いた時間、街を歩く。

 声を掛けて貰えるようになった。

 というのも、歌う魔道具人形を直してもらって、それを歌わせながら歩くからだ。

 歌があると覚えてもらうのも早い。


「買い取って下さいな」

「この核石と溜石の大きさだと、大銅貨6枚ってところかな」

「それでいいです」


 魔道具ギルドに行くと、壊れた核石を売ってくれる職人が現れた。


「聞いたぞ。孤児院を支援するって契約魔法に掛かったんだってな」

「はい」


 契約魔法は俺が犠牲になる対価だと思ったけど、信用のない俺の信用に結びついているんだな。

 ピュアンナさんに感謝しないと。

 シナグルさんに魔道具を修理してもらって、孤児院に持っていく。


「ああ、ロストさん。いらっしゃい」

「孤児院に魔道具を寄付したい。火点けと歌う人形しかないけど」

「ありがとうございます。人形は子供達が喜ぶでしょう」

「そう言ってもらうと俺も嬉しいよ」


「何でそこまでしてくれるんですか?」

「俺は成人してすぐに親が死んだ。親が死ぬのが早かったら俺も孤児院に入れられてただろう。それに……」

「それに?」

「俺は人々の善意の甘い汁を吸う寄生虫だ。孤児院に名前を利用して生きている。だから、孤児院にはよくしないと」

「そうですか。ですが、あなたは立派だと思います。助かっている孤児院もあるのですから」


「俺っ、俺はこのままやって行って良いのかな」

「もちろん」


 目頭が熱くなった。

 ゆくゆくはこの事業の利益は全て孤児院に渡したい。

 そうするには借金を返さないと。


 修理した魔道具の貸し出しと売り出しだ。

 今までは孤児院を支援している商人に売り込みを掛けた。


 今日から一般向けに貸し出しと売り出しを始める。

 売り出しは問題ないだろう。

 貸し出しは返却されないなどのリスクがある。


「ルンルンルン♪ 嬉しい嬉しい嬉しいな♪……」


 魔道具人形が歌う。


「中古魔道具が安いよ! 貸出魔道具が安いよ!」


 露店を開き、声を上げると人が寄って来た。


「銅貨3枚で魔道具を貸すのか。借りた」


 この男は返さないような気がする。


「返せなくなったら、誰かに親切を返して下さい。特に孤児を親切にしてくれると嬉しい。この魔道具は孤児への寄付でここに並んでいるから」

「そうか」


 貸し出す魔道具はあっと言う間になくなった。

 次の日。

 返ってきた魔道具は半分ぐらい。


 まあ、これでも良く返ってきた。

 孤児への親切で返されるといいけど、何となく悔しい。


 直した魔道具でなくて新品で貸出業をやっていても、たしかに悔しかっただろう。

 でも善意を踏みつける奴が許せない。

 俺はパンを配っていたあの女の子の気持ちにはなれない。


 どうするのが良いだろう。

 シナグルさんはどんな魔道具でも作ってくれるという噂がある。


 返却の魔道具を作って貰えないかな。


「こんにちは」

「いらっしゃい。魔道具の修理か?」

「いいえ、貸出業を始めたんですが、返却しない人が多くて。俺はまだ良いんです。悔しいだけですから。でも寄付してくれた人の善意を踏みにじる行為が許せない。返却の魔道具を作ってくれませんか」

「対価は?」


 対価として何を差し出したらいいだろう。

 噂では心がこもった品を対価にするらしい。


 俺が払える物と言ったら。


「店の権利書を対価にする」

「お前の店は露店だろう」

「ああ、今は露店だ。でもいずれは大きくなる。魔道具の貸出業は発展する。その発展を対価にする」

「まあ、いいか。貸出業が流行れば、魔道具職人も流行る。よし、ラーラーラ♪ラ♪ラー♪、ララ♪ラー♪、ララーラ♪ラ♪ラー♪ラララー♪ララーラ♪ラーラ♪ラ♪ラーララ♪」


 箱に核石と溜石と導線が付けられた。

 箱に返却ボックスと書かれて完成だ。


「ありがとう。俺の店は今からシナグルさんのものだ」

「大きくして、お金ではない利益を出してくれたらいい」

「はい」


 お金ではない利益か。

 店が大きくなったら、孤児を積極的に雇おうか。


 さあ、返却だ。

 魔道具を起動すると、箱には貸して返らなかった魔道具がぎっしり詰まっていた。


 よし、今日も貸し出すぞ。


「中古魔道具が安いよ! 貸出魔道具が安いよ!」

「お前、それは俺の魔道具だ。泥棒」


 こいつは貸して返却しなかった客だ。

 だが、もう客ではない。


「守備兵の所に行っても構わない。俺の魔道具には全部刻印が付いている」

「くっ、二度と借りるか、こんな店。糞な店だ」


「何だと」


 俺は頭にきた。

 この店はな、孤児院の善意でやらして貰っている。

 善意が詰まった店なんだ。

 寄生虫の俺が言えた義理ではないが。

 馬鹿にされて無性に腹が立った。


 頭の中が真っ白になって、男に殴りかかっていた。


 そして、男と俺は守備兵に連れて行かれた。


「あんた。客を殴ったら不味いだろ」


 守備兵が呆れた口調でそう話す。


「いいんだ。孤児院の善意を踏みにじる奴なんて殴られて当然だ」


 俺はいきさつを全て話した。


「なるほど糞野郎だな。だが次からは守備兵を呼べ。あんたは良い奴だから、駆け付けてやる」


 俺の今までの活動は無駄じゃなかった。

 理解者も少しずつ増えている。


 今度からは泥棒として守備兵に突きだそう。

 それにしても俺は恵まれている。

 色々な人の善意で生かされているような気がする。

 いや気がするではなくて確実にそうだ。


 このことは忘れまい。

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