第40章 最低野郎からの脱出

第154話 魔道具レンタル業

Side:ピュアンナ

 私はピュアンナ、魔道具ギルドの職員。

 主な仕事は受付嬢。

 さあ今日はどんなお客様が来るかしら。


「金を稼ぐ魔道具を依頼したい」


 そう、少年がやってきて言った。

 ええと、魔道具がお金を稼いでくれたら誰も働かないわ。

 そんな旨い話があるわけない。

 でもとりあえず色々と聞いてみないと。


「どのようにお金を稼ぐのですか?」

「秘密は守れる?」

「はい、守秘義務がありますから、犯罪行為でもない限り秘密は守ります」

「魔道具を貸してお金を取るんだ」


「それはお薦めできないですね」

「なぜ?」

「魔道具は一定確率で壊れます。そう言った仕事ですとかなりギャンブルになるかと」

「数多く運用すれば、平均に収まるはず」


 100個ぐらい運用すればそうなるかしら。

 ただ貸した魔道具を持ち逃げされたり、壊れた物とすり替えたりのリスクもあるわね。

 貸す相手は魔道具が高くて買えない人が多いでしょうから。


 魔道具の貸し出し業ね。

 たしかに誰もやっていないから、先見性はあるわね。

 魔道具の普及で考えたら、後押ししてあげたい。


 問題をひとつひとつ潰して行きましょうか。


「貸した相手が魔道具を返してくれなかったらどうするの」

「ぐぐぐ、意地悪しなくて良いじゃないか。虐めるなよ」


「あなた資金はどうしたの?」

「借りた」


「呆れた」

「この商売は上手く行く。誰もやってないから。絶対だ!」


 借金奴隷一直線ね。

 今から借金を返すと、利子の分が損になるわね。

 でも、ここで魔道具作成依頼を出させたら大変なことになりそう。


「あなた名前は?」

「ロスト」

「いい、あたなこのままじゃ借金奴隷になるわよ。100%ね。全財産を賭けたって良い」

「そんな」


 さて、どうしましょう。

 魔道具を作って貸し出すのはリスクが高い。

 魔道具転売も上手くないわね。

 商人としての資質に欠けているようだから。


 そういえばこの間、マギナが言ってたわ。

 シナグル工房で核石が直せるってみんな知らないと。

 周知しないといけないって。


 壊れた魔道具を買い取ったらどうかしら。

 そしてシナグル工房で修理して売る。

 利益が上がったら、修理した魔道具のいくつかを貸し出しに回す。

 これはリスクがあるけど儲かっての余力なら問題ないはず。


 私の考えを説明してあげた。


「やってみるよ。ありがとう。まずは壊れた魔道具の回収からだね」

「ええ、大声で宣伝しながら街を歩くのね」

「ここは魔道具職人が多いよね。壊れた核石買取の依頼を出したい」

「変則的だけど良いでしょう」


 壊れた核石買取の依頼を出した。

 壊れた核石が大銅貨1枚って、ぼったくりね。

 適正な値段はもう少し上だけど、それはロストが経験して知っていくことよ。


 でもこれぐらい値切るぐらいでないと借金の利子は払えないわ。

 ロストが奴隷落ちしないことを祈りましょう。


 なんとか、ロストを正しい方向に導けたと思う。

 魔道具の修理は、大事に使うということなら、良いことだわ。

 修理した魔道具なら価格を抑えられるから、貸し出しで返却されなくても少し痛くない。


 さあ、次のお客様は?


「ええと、子供がしょっちゅう熱を出すんで、魔道具が欲しい」

「薬師ギルドに行くことをお薦めします」


「薬は苦いって子供が嫌がるんだ」

「何か大変な病気の可能性もあるので医者に掛かってみてはどうですか」

「医者には見せたが、いつも風邪だと言われる」


 解熱の魔道具はシナグルなら作って貰えそうだけど、対価が払えるかしら。

 氷製造の魔道具ぐらいに収めておくのが良さそうだけど。

 何となく嫌な予感がする。


 シナグルに無理を言って、解熱じゃなくて、病気治療の魔道具を頼んだ方が良さそう。

 でも病気治療の魔道具は国宝並みの価値よね


 何か旨い手はないかしら。

 病気治療の魔道具は常に必要ではないわよね。

 治れば要らなくなる。


 ロストのアイデアをパクりましょう。

 治療の魔道具を貸し出してお金を取るのよ。

 治癒師ギルドと提携して、治癒師や医者に貸し出せば、魔道具が返ってこないということはなくなるわ。

 それでいきましょう。


「病気治療の魔道具を作ってもらうわ。対価は国宝並みになるからあなたには払えないから、治癒師ギルドに魔道具を貸し出して使わせる。これで良い?」

「ああ、魔道具で病気を治せるなら問題ない」


 さて、シナグルを説得しないと。


「こんにちは」

「いらっしゃい」


「病気治療の魔道具を作って欲しいんだけど」

「対価は」

「その魔道具を治癒師ギルドに貸し出して、代金に充てる。何年かすれば、きっと国宝ひとつぐらいは稼げるはず。街の住人全員の治療費だから」

「まあいいか。よし、ラー♪ララーラ♪ラ♪ララー♪ラー♪ ララー♪ ラーララ♪ララ♪ラララ♪ラ♪ララー♪ラララ♪ラ♪。できた」


 小さいお椀みたいな木片に核石と溜石と導線が付けられた。

 そしてお椀は普通のロープが一本つ付けられた。

 ロープの先にはY字型の枝が。

 シナグルは枝の端を炙ると、指の関節ほどの長さに、折り曲げる。

 そしてその枝を耳に入れた。

 お椀の木片を動かして探る動作をする。


「不思議な形ね」

「まあな」

「耳の穴に入って落ちないのは、便利そうだけど」


 病気治療の魔道具ができた。

 さあ、治癒師ギルドと交渉よ。

 頑張りましょう。

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