第152話 刻印の魔道具
Side:マギナ・トゥルース
まず、盗みの連鎖ね。
でもこれは普通の生活でもあり得ること。
誰かが損をして終わるみたいな話は多々ある。
こういうのは負の物だけではない。
例えばスイータリアがやっている親切投資は良い連鎖ね。
親切にしてたまにそれが帰って来る。
世の中は循環していることが良く分かる。
そう、循環よ。
今回は悪い循環を全て辿った。
これは賢い解決方法とは言えない。
「休憩時間だ。お茶でも淹れようか?」
「ええ」
シナグル工房で考えにふけっていた私は、シナグルに言われて考えを中断した。
「難しい真理でも考えていたのか?」
「すべては流れなのではないかなと思うわ」
「まあ、エネルギーとかも流れだからな」
「流れを逆流させたり、止めたりするのは難しい」
「まあな」
「そうよ。流れが起きないようにもできるはず。完全ではないけど」
「完全なものなどない。神さえも完全ではない。その証拠に世界は完全ではない」
「でも完全に近づける努力はできる。今回の魔道具盗難は魔道具に名前を書いていれば防げたかも知れない」
「他人の名前が書かれている物を家に持ち帰るのは、泥棒しましたと言っているようなものだから、効果はあるだろう」
悪い流れなら、流れを見極めて最初の流れを食い止める。
「持ち物に名前を書く文化を作ったらどうかしら」
「それなら。ラ♪ラーラ♪ラーラーラ♪ララーラ♪ララー♪ララララー♪ララ♪ラーラ♪ラーラーラ♪」
シナグルが核石を作って木切れに嵌めた。
形からするに大きい印鑑みたい。
「何の魔道具?」
「刻印の魔道具だ。自分の紋章とかサインを刻印して、さらに魔力結晶も浸透させる。削ったぐらいでは刻印がなくならない」
「流行りそうな魔道具ね」
「ああ、色んな所に売るつもりだ」
これが流行れば、盗みの何割かは減るわね。
悪い流れの最初を少し食い止めたわ。
それと、魔道具を壊して捨てた子は、シナグル工房で核石が直ることを知らなかったのね。
これから、ことあるごとにシナグル工房を宣伝しましょう。
これで何となくスッキリ。
悪い流れがあったら、修復するのも良いけど、元から絶たないと駄目ってことね。
シナグルに刻印の魔道具をいくつも貰った。
アイデア料のつもりかしら。
今回の発端の女の子の家に行って、扉を叩く。
「あっ、お姉さん。まだ何か?」
「犯人の子を恨んでいるんじゃないかと思って」
「正直、少し恨んでます」
「でもあなたも盗んで、悪い流れに加担した。それを責めているんじゃないわ。今回の事件が起こらないようにする素敵な方法があるんだけど」
「えっと、教えて下さい」
「物に名前を書くのよ。なくなると困る物はとくにね。それで刻印の魔道具があるからあげる。お友達にも使わせてあげてね」
刻印の魔道具を渡した。
「ありがとう。じゃさっそく。うわぁ、なんか自分の印章があるとお貴族様になった気分。これ楽しいかも」
「喜んでもらって嬉しいわ。魔道具が壊れたらシナグル工房にもっていくのよ。お友達にも伝えてね」
「はい、必ず。私も悪かったんですね。確かに名前を書いておけば良かった。盗んだ子は悪いけど、わたしにも隙があった」
「ええ、それが分かれば満点ね」
今度こそ完結。
あっ、ヤルダーの課題の答えが考えてない。
困ったわね。
今日は真理を得た。
物事は流れ。
流れの最初を変えれば悪いことは防げる。
これをヤルダーの課題に応用すれば。
浮浪児は物事の流れで悪い結果を押し付けられた。
今まで、ヤルダーがやったのは悪い流れを修復すること。
それも確かに間違いじゃない。
でも、浮浪児を出さないのが一番良い。
浮浪児が出る原因はいくつもある。
モンスターの襲撃。
作物の不作。
お金がなくて税金が払えない。
他にも色々とあると思う。
私がこの原因を全て潰す必要はない。
原因を潰す流れを作ればいいのだから。
悪い流れを止めるのができるなら、良い流れを始めることもできるはず。
流れを見極めれば良い。
ただそれだけ。
うふふっ、悟ってしまった。
家に帰るとヤルダーが難しい顔をしていた。
浮浪者がゼロになる真理が分からないのね。
「お師匠様、いま夕飯の支度をします」
「苦戦しているようね」
「浮浪児ができる仕事を増やすのではだめなんですよね?」
「それだと真理とは言えないわ。ただ浮浪児が食べられるようになると、犯罪が減るんじゃないかしら。浮浪児に対する風当たりも弱まるわ。無駄なことではないと思う」
「それじゃ一向に浮浪児は減りません。事実、いろいなことを仕込んだ浮浪児の中には不器用な奴もいて、食えないから盗みを働いて殴られて殺されたりします」
「難しい問題ね」
「はい、真理は見えません」
ヤルダーは今回の事件で泣いてたあの女の子と一緒ね。
もっと、大局を見る目を養わないと。
ここでヒントを上げるのは良くないわ。
明日、ヤルダーの答えを聞いて、答え合わせしましょう。
私の模範解答はもう考えついた。
私の解答も間違っているかも知れない。
完全な物などないというのが真理だから。
でも私が流れを読んで出した答えをヤルダーが上回ればそれはそれで嬉しいわ。
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