第39章 浮浪児ギルド

第151話 盗みの連鎖

Side:マギナ・トゥルース

 私はマギナ。

 真理を追究する者。

 弟子のヤルダーに一番大切なことを伝え忘れていたのに気がついた。


「ヤルダー、あなたはどんな真理を目指すの?」

「お師匠様、浮浪児がゼロになるような真理を知りたい」

「あなたの真理は経済学ね。魔法とは直接関係ないけど、魔法による経済活動がないわけじゃない。でも、みんなが笑える結末でないと。ただ、浮浪児を少なくするだけじゃ駄目ね」


「分かってます。ベーゴマの時に他人を不幸にしないように考えました」

「ならば、みんなが幸福になる真理を示しなさい」

「分かりました。考えてみます」


 ヤルダーに課題を出した。

 ヤルダーが求める理想に対する真理はなんでしょう。

 師匠として私なりの答えを出さないと。


 浮浪児は今、玩具製作と、スケートリンクと、青空教室と、家庭教師と、商品テストの仕事をしている。

 食べてはいけるようにはなった。

 だけど、浮浪児に職を与えるのが真理だとは思わない。


 何か、視点が欠けているような気がする。

 シナグル工房に足が向いた。


「邪魔するわね」

「いいさ、マギナは本を読んでて、騒がないから、気が散らない」


 いつもの椅子に腰かけて本を読み始めた。


「あの」


 8歳ぐらいの女の子が扉を開けて入って来た。


「いらっしゃい。修理かな?」


 子供の手には魔道具が握られていたのが見て取れたので、私は興味を失って本に視線を戻した、


「違うんです。この魔道具私のじゃなくて。ひっぐ」


 女の子が泣きだしたので、私は興味をそそられて視線を女の子に戻した。


「ええと、友達の魔道具を修理にきたのかな?」

「修理じゃないんです。ぐすっ。私とんでもないことをしてしまって」

「何をしたのかな?」


 シナグルの口調は優しい。


「この魔道具は盗んでしまったんです」


 何となく話が見えて来た。

 この女の子はこの魔道具を盗んだのね。

 で、謝罪したいと。

 でも、何でシナグルの所に?


「盗みはいけないね。元の持ち主に返して謝らないと」

「持ち主は分からないんです」

「ええと、最初から話してごらん」


「冒険者育成塾で魔道具を使う授業があったんです。それで授業が終わって、しばらく経って、私のロッカーをみたら魔道具が盗まれてて。魔道具をなくしたら母さんに怒られるので、パニックになっちゃって。つい他の人のロッカーから魔道具を盗んでしまって」

「なるほどね。集会にいっての靴とか傘のことを思い出すよ。他人に取られて困ったことは俺もある」


 ここでは集会で靴なんか脱がないから、シナグルの経験談はどこの話?

 傘もそう。

 ほとんどの人は雨の日にレインコートを使う。

 まあ、話の論点はそこじゃないわよね。

 この女の子の話をどうまとめるかだわ。


「どうしたらいいですか?」

「俺はそういう時に、家族に連絡できない時は、最後まで残って、残り物を貰って帰ったな。まあそれも盗みには違いないが。傘なんか、最後に残らないことがあったな。そういう時は濡れて帰った」


 残り物を貰う。

 残り物がない時は諦める。

 なんかシナグルらしいわね。


「じゃあ、私はどうすれば?」

「持ち主を調べる魔道具を作ってやる。それで突き止めて謝るんだな」


 シナグルが魔道具を作り始めた。


「ラララーラ♪ララ♪ラーラ♪ラーララ♪、ラーラーラー♪ラララー♪ラー♪、ラー♪ララララ♪ラ♪、ラーラーラー♪ララーラー♪ラーラ♪ラ♪ララーラ♪。ほらできた」


 鎖と重りに魔道具が付けられた。

 何だかこの女の子の結末を見てみたい気がする。


「お姉さんが付いて行って良い?」

「はい」


 魔道具で、持ち主を探す。

 持ち主はすぐに見つかった。


「ごめん、あなたの魔道具を持って行ってしまったの」

「ええと、実は俺も人の物を盗った」


 そうよね。

 誰しも怒られるのは嫌だから、そうなるわよね。


「私が返してあげる」

「頼むよ」


 こうやって、絡んだ糸のような窃盗事件が解決していく。

 でも糸は切れた。

 誰の物も盗まなかった子に辿り着いたの。

 ええと、たぶんだけど最初に盗んだ子はきっと魔道具が壊れて、それで盗んだのよね。


「お姉さん、ありがとう。これから、魔道具をなくしたことをお母さんに謝ります」


 なんか釈然としない終わり方ね。

 誰に盗まれたかを調べる魔道具を作ってもらうべき。

 ええと、シナグルに頼むのなら対価が要るわね。

 盗んだ子は壊れた魔道具をどうしたかな?

 きっと捨てている。

 家に魔道具を二つ持って帰ったらそれはそれで問題よね。

 きっと塾のゴミ箱にあるに違いない。


「塾に案内して!」

「はい」


 思った通り、塾のゴミ箱には壊れた魔道具が捨ててあった。

 最初の犯人を突き止めた。


「あなたが私の魔道具を盗んだのね」

「ごめん。魔道具を返すから、塾と親には言わないで」


 魔道具が返された。


「違う、これは私のじゃない。核石に入った線が違う」


 まだ糸はほどれていなかった。

 ここまでくればあとは解決まで一直線。


 3人ほどを経由して全ての糸はほどれた。

 うん、すっきりしてない。

 何かが引っ掛かる。


 魔道具を壊した子にはシナグル工房に修理に行けと言ったし、もう何もないはず。

 ないはず。

 でも、何かが引っ掛かる。

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