第149話 果物の苗と種

Side:

 また、小舟で上陸。

 男の家に行くと、住民が集まっていた。


「行き来できるのなら、漂流した時に無くさなかった物を託す」

「俺もだ」

「未練を断ち切る意味でも持って行ってくれ。俺は行き来できても母国には帰らない」

「俺もだ」


 スキットル、ロケットペンダント、航海日誌、階級章など、色々な物が集まった。

 酒を入れる銀製のスキットルには穴が開いていた。

 たぶん漂流する時にここに尖った木材が当たったのだろう。

 これが無かったら死んでいたと思われる。


 ロケットペンダントには肖像画が入っていたようだが、海水に浸かって何が描いてあるのか分からない。


 航海日誌も水に浸かったのか、半分ぐらいはインクがにじんで読めない。


 階級章は色あせていた。

 ここに来てからの年月を思わせる。


「島の魂みたいな物はないか?」


 わしが尋ねると男達は顔を寄せ合って話し始めた。


「ふふふっ、島の魂なら知っているわ」


 男の奥さんがそう言って笑った。


「何だよ。もったいぶらずに教えてくれ」


 男がそう言って急かす。


「いま、この会合に出された果実の種よ。これが無かったら私達は暮らしていけない」


 ふむ、面白い。

 シナグルは島の魂と言って果実の種や苗を出されたらどうするだろうな。


 対価とするべき物は揃った。

 魔道具が欲しいと願ったシナグルへの扉が現れる。


 わしは、それを潜った。


「いらっしゃい」

「あなたはどんな真理を知っているのかしら」


 シナグルと魔法使いの女が迎えてくれた。


「おう、世話になる。今回は島の魂の品を見せる。わしは真理など知らん」


 そう言って種と苗木を作業台の上に置いた。


「島の魂か。確かに生きていく上では食べ物は大事だ。島の魂、確かに受け取った」

「どれも見たことがないわね。これは凄いお宝なのでは」


「こっちの袋は漂流者の持ち物だ」

「どれも思い出の品なんだろうな。良いのか? 見るだけで返してもいいんだぞ」

「島に根を張る意味で、未練を断ち切りたいそうだ」

「分かった。これらの品は博物館でも作ったら展示するさ。何の魔道具を作って欲しい?」


「島と大陸の転移の魔道具だ」

「転移は散々作ったからな。ラー♪ラ♪ララーララ♪ラ♪ララーラーラ♪ラーラーラー♪ララーラ♪ラー♪ララー♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪。ほらできた」


「すまんな。大した対価でもないのに」

「マギナが言ったようにお宝だ。俺なら温室の魔道具を作れるからな。その島の気温と降水のデータが要るが、何年か掛ければ栽培できるだろう」

「温室を作ったら教えて、知らない植物に興味があるわ」


 シナグル工房の近くに家を借りた。

 そこに転移の魔道具を設置する。

 そして、島に戻って、やはり転移の魔道具を設置した。


 わしが試しに転移魔道具の絨毯の上に乗る。

 わしが借りた家の部屋に無事着いた。


 部屋の転移魔道具の絨毯の上に乗ると。

 男の家の部屋に出た。


「母国に帰るなら路銀が要るな。ひと家族、金貨10枚もあれば足りるか?」

「ああ、ありがとう」


「少し待て、金策をしてくる」


 わしは転移の魔道具で家に帰った。


 国のポーション部門の研究室の扉を叩く。


「死の領域の植物を持って帰った。いくらでも良い買ってくれ」

「どれどれ、ふむこの苗と果実は見たことがない。ポーションにできるなら凄い発見だ。研究する価値はある。金貨30枚でどうだ?」

「わしには価値など分からん。その値段で構わない」


「その島に研究に行きたい」

「トレジャ国にあるシナグル工房の近くに家を借りた。そこの部屋から魔道具で島に跳べる」


「おう、転移魔道具の使用料として金貨10枚を払おう」

「了解した」


 安売りしたような気もするが、契約書を交わしてないから、金が必要になったら話し合うさ。

 次に、珍しい食べ物を扱う商会を訪ねた。


「これはこれは、旦那様。我が商会で揃えられない食材はございません」

「今日は売りにきた」


 果実を出すと目の色が変わった。


「これをどこで?!」

「とある島だ。この国と交易がない島だ」

「国のポーション部門にも売ったから、栽培方法はそちらに問い合わせてくれ。さていくらで買う?」

「試食してもよろしいですか?」

「もちろん」


 果実の皮が剥かれ切り分けられた。


「大変、美味ですな。この辺では代替品がない果実です。そうですな。金貨50枚で」

「トレジャ国にあるシナグル工房の近くに家を借りた。そこの部屋から魔道具で島に跳べる。使用料を貰いたい」


 ポーション部門と同じことを言った。


「ふむ、よろしい。金貨20枚でどうでしょうか」

「気前が良かったのでサービスしてやる。シナグル工房では温室の魔道具を作るそうだ。栽培の助けになるだろう」

「それはそれは、ありがたい情報ですな。感謝いたします」


 あの魔法使いの女には感謝だ。

 わしにはこの価値が見抜けなんだ。


 路銀が出たようで何よりだ。

 肩の荷が下りた気がする。

 島を離れ、漂流の旅に戻るとしよう。

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