第4部 魔道具委員会編

第37章 御用達

第145話 魔道具委員会

Side:アグリー・フーリッシュ


 わしは、アグリー・フーリッシュ。

 魔道具一族であるフーリッシュに名を連ねる者。

 この度、魔道具委員会を立ち上げた。

 今は委員長だが、いずれは魔道具省に発展させて、大臣になりたいと思っている。


「ふむ、袖の下をたくさん貰える制度はないか?」


 わしはそう意見を求めた。

 ここは魔道具委員会。

 大臣直下の機関だ。

 わしの他に丸テーブルに5人の委員が着いている。


 委員の選出には気を使った。

 わしが属している貴族の派閥で、さらに絶対に裏切らないという者を集めた。


「誰が聞いているか分かりませんぞ」

「ここにいる者はみんな同志。裏切り者などおるまい」

「ですな。わっはっはっ。役人になったからには袖の下をたくさん貰わないと」


 ふむ、みんな頷いている。


「では、魔道具ひとつひとつに、税金を掛けてみては。袖の下を貰った商人には、御用達の看板を上げさせて、税を免除するのです」


 良いぞ良いぞ。

 良い流れだ。

 これぞ、役人冥利に尽きるというもの。


「みなさんどうですかな?」

「いっそのこと御用達を決めるのはオークションにしませんか。袖の下オークション」

「良いですな。実に良い」

「はっはっは」

「わはは」

「これで巨万の富が築けますな」


 わしは、委員長として法律の策定に取り掛かった。


「この法案を通して頂きたい」


 大臣に法案を持っていったところ、大臣は少し渋い顔。


「税を掛けると商品の売れ行きが滞る。結局、国にはお金は入ってこない」

「証拠はあるのですかな」

「いや今まで大臣をやってきての経験だ」

「話になりませんな。確固たる証拠もなしに言ってもらっては」

「君は経験を無視するのか?!」


「いえ、そういうことではありません」

「ではどういうことかな?」


 どんと分厚い嘆願書の束を出した。


「こういうことですな」

「くっ、貴族達の総意というわけか」

「左様です」


 大臣は渋い顔をしたが、貴族の嘆願書があるので押し切られた格好になった。

 うはは、わしの人脈と伝手を持ってすればこれぐらいは容易い。

 委員会の会議室に戻る。


「どうでしたか?」

「もちろん上手くいったぞ。嘆願書が決め手になった」

「嘆願書を集めるためにお金をばら撒いたのですから、回収せねばならないですな」

「ですな」


「では手筈通り、オークションを開催しますか」


 委員にオークションの開催のもろもろを頼んだ。

 魔道具ギルドに行ってグランドマスターに面会を申し込んだ。


「何ですか?」

「魔道具ひとつずつに税金を掛けることになりまして、魔道具ギルドのほうにも告知して欲しい」

「それは無体な。すでに所得に税金が掛けられているのに、そんなことをすれば市場は冷え切ってしまう」

「喉元過ぎればですぞ。税金があることに慣れれば、元通りになるはず。何も心配は要りませんぞ」

「いや、そうはならない」


「わしの経験を無視するのですか?」


 大臣に言われたフレーズを使ってみた。

 わしは、敵の良い所は取り入れる。

 度量が広いのだ。


「いや、しかし」

「元通りにならないという確固たる証拠がなければ、国は動かない」

「くっ、横暴だ」

「言い掛かりもほどほどにしませんと」


「そっちがその気なら、こっちはシングルキー卿を動かしますぞ」

「好きにするといい。下級貴族一人でどうにかなるほど国政は甘くない」


 うわははっ、痛快だ。

 あのグランドマスターがぐうの音も出ない。

 大臣もグランドマスターもわしの手に掛かれば、造作もない。


 委員会に戻ると、酒席が用意されていた。

 ふむ、良いぞ。

 祝杯を挙げるとしよう。


「袖の下に……。乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」


 女達が入って来た。


「景気が良さそうですね。どのようなカラクリなのですか?」

「それはな、秘密だ」


 大臣の密偵がいるとも限らないからな。

 袖の下オークションの存在は知られたらいかん。


「まあ。私がお願いしてもですか」


 この女怪しいな。

 用心しないと。


「一晩付き合うなら考えんでもない」


 考えるというのがみそだ。

 好きに扱って、情報は漏らさない。

 ハニートラップ対策の手だな。

 わしは馬鹿ではない。

 委員の者達も、女とよろしくやっているが、袖の下という言葉は出て来ない。

 もし漏らせば、そいつに罪を全て被せて、後始末だな。

 まあ、分かっているだろう。


 貴族に連なる者達だからな。

 わしはこの怪しい女と、一晩よろしくやった。


「ねぇ、付き合ったのだから、教えてよ」

「わはは、やましいことなど無い。法案がひとつ通ったので気分が良かっただけだ。法案を通すのは役人の醍醐味だからな」

「そう」


 怪しい女は、わしのことを疑っているようだったが、どうにもできまい。

 証拠さえ掴まれなければどうにもならないはず。

 袖の下オークションか。

 定期的に大金が転がり込む良いネタよな。


 逆に怪しい女の後をつけるように手下に命令。

 しばらくして報告が上がった。

 どうやら怪しい女は、魔道具ギルドの手の者だったらしい。

 これだから油断はできない。


 そのうち、魔道具ギルドのグランドマスターの首もすげ替えないといけないな。

 まあいい。

 袖の下オークションが開催されて上手く行けば力が手に入る。

 その力を使えば、大抵のことは可能なはずだ。


 袖の下オークションが待ち遠しい。

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