第146話 袖の下オークション

Side:アグリー・フーリッシュ

 さあ、袖の下オークション開催だ。

 ギリギリまで照明を落とした会場。

 参加する商人と委員会のメンバーは仮面をつけている。

 競りに掛ける商品の名前はクッキーだ。


「甘い極上クッキー。こちらの商品は金貨100枚からとなっています」


 もし、この場に騎士などが踏み込んでもクッキーのオークションだと白を切れる。


「101枚!」

「110枚!」

「150枚!」

「160枚!」

「200枚!」


 わはははっ、今回のクッキーは10袋が出品予定だ。

 現時点でも金貨200×10枚の金貨2000枚。

 笑いが止まらん。


「205枚!」

「金貨205枚、もうありませんか!」


 金貨205枚か。

 うむ、最初としてはまずまずだ。


 オークションは進み。

 全部で金貨2158枚の儲けになった。


 落札した人間が、商会の名前が入った魔道具を置いていく。

 あとはこれを王族に使ってもらって、御用達の許可を得れば良い。

 使って貰うのは、別に使って貰わなくてもいい。

 部屋の中に入れるだけでいいのだ。

 献上品などというものはたびたびあるからな。

 王族が使うなど一握りだ。


 だから、献上が叶って部屋に入れれば使ったことになる。

 一応、御用達の審査はあるが、ないも同じだ。

 こっちには貴族が付いている。

 どこの役所にも知り合いはいる。


 書類に不備さえなければ通る。

 ことは成った。

 さあ、宴会だ。


 祝杯は何度挙げても気分が良いものだ。


「上手く行き過ぎのような気がする」

「気のせいだ」


 臆病風に吹かれるとは小心者だな。


「魔道具ギルドに動きが無いのが不気味だ」

「気にすることはない。わしらの計画が完璧すぎて打つ手がないだけだ」

「そうなら良いのだが」

「そんなに言うのなら。おい!」


 下っ端の役人を呼んで、魔道具ギルドの職員を呼び出す。


「御用ですか?」


 この職員はわしの息が掛かった奴だ。


「魔道具ギルドで特別な動きがあったか?」

「いいえ。魔道具コンテストで忙しくしているだけです」

「魔道具コンテストとは初耳だな」

「魔道具の向上を目指して、国中の魔道具工房が参加してます」

「そうか。魔道具の取引量が増えれば、もっとクッキーが売れる」

「クッキー?」

「気にしなくて良い」


 魔道具コンテストで市場が冷えないようにしたのだな。

 どれだけ効果があるか分からないが、こっちにも得になることだ。

 よし、補助金を出してやろう。

 わしの金ではないからな。

 気兼ねなく出せる。


Side:シナグル・シングルキー


「大変!」

「ピュアンナ、慌ててどうした?」

「魔道具ひとつひとつに税金を掛けるそうよ」

「税金は腹立たしいが、国の維持にはお金が要る」


「ええそうね。でもこの法案の狡い所は、王族御用達の所は無税なのよ。噂では役人が袖の下を貰って御用達を決めているみたい」

「それは公平ではないな。分かった。何とか考えよう」

「お願いするわ。王都のグランドマスターもシナグルには期待しているの」


「ええと法律で来るなら穴を突こう。ララーララ♪ラ♪ラーラーラ♪ララー♪ララーララ♪、ララーララ♪ラーラーラー♪ラーラーラー♪ララーラーラ♪ララララ♪ラーラーラー♪ララーララ♪ラ♪。できた、法律の穴を調べる魔道具だ」

「やってみて」


 魔道具を起動してみた。


「なるほど、王族御用達は、王族が最終的に決めるのか。献上が通りさえすれば良いらしい」

「でも献上は通らないわよ」

「俺が一筆書こう。でも理由が要るな。やたらめったら、献上されても困るだろう」

「そうね」


「あれかな。コンテストを開くか。そして、コンテストに出品した工房には何かしらの賞をあげる。そして賞を取りましたと王に献上すればいい。今回の法律が役に立たなくなって廃止された場合は……。そうだな、次回のコンテストから、賞の選考を厳しくすれば良い」

「なるほど。コンテストを残すのは良いわね」


 魔道具師ギルドが総力を挙げて、コンテストを開く。

 俺は審査員として王都に呼ばれた。

 何千とある魔道具を全部審査しないといけない。

 自分から言い出したことだから仕方ない。

 でもずるをしようか。


 『Grade』、歌は『ラーラーラ♪ララーラ♪ララー♪ラーララ♪ラ♪』で魔道具を作る。

 採点の魔道具だ。

 これで点数を出して足切りする。

 上位20個ぐらいの魔道具を実際に試してみれば良い。


 足切りされた魔道具は努力賞とした。

 全部の魔道具を王へ献上する。


 魔道具の献上をしに、グランドマスターと一緒に、王に謁見した。


「頭を上げるといいぞ」

「はい」

「はい」


「この魔道具は一回使ったら下賜する物とする」

「仰せのままに」


 謁見はこれだけ。

 でも国内のほとんどの工房が王族御用達になった。


 魔道具ギルドがフル回転。

 王族御用達の証明書を送ったらしい。


 俺の所にも届いた。

 御用達の期限は、次のコンテストまでの1年間だ。


 さあ、どうなるか見物だ。

 王へ献上した事実はもはや変えられない。

 無税の商人を御用達以外に作り出すのは無理がある。

 理由がないからな。

 税が掛からないのは本来なら王族以外にあり得ない。

 今回は御用達ということで強引に王族と同じと主張したのだ。

 かなり強引だがな。

 しかし、これでこの法律は廃止されるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る