第144話 邪神教の終わり
Side:シナグル・シングルキー
「大変だ! エビルドラゴンが復活したようだ!」
冒険者ギルドの使いがそう伝言して言った。
エビルドラゴンの特性は生命力を吸い取ることにある。
ドレイン攻撃特化と言えば分かりやすい。
エビルドラゴンは前に倒したから楽に倒せるだろう。
たしか、前は反転の盾を使った。
だが、相手がパワーアップしている可能性もある。
ここは新兵器を開発しよう。
「ララーラ♪ラ♪ラララーラ♪ララーララ♪ラ♪ラーララーラ♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪っと。これを盾に付ける」
反射の盾の完成だ。
反射の盾は絶対防御に近いんじゃないかな。
被害が拡大しないうちに現場に行こう。
現場の草木はみんな萎れている。
これは確かにエビルドラゴンだな。
だが、どこにもドラゴンの巨体がない。
反射の盾を起動して用心深く進む。
「ふはははっ、俺こそが最強だ」
そう言って笑っている男がいる。
みるとその装備はドラゴンの鱗から作ったと思われる。
黒いところから推察するに、ブラックドラゴンか、エビルドラゴンだな。
「お前はここで何をしている?!」
「決まりきったことを。エビルドラゴン装備を試しているのだ」
「復活したエビルドラゴンを狩って装備を作ったのか?」
「何を言うかと思えば。そんなの素材を商人から奪ったのに決まっている。どこかの馬鹿がエビルドラゴンを倒してくれたからな」
ええと、エビルドラゴン復活は誤報か。
こいつが草木を萎れさせていたんだな。
「許さん!」
「許さんだと誰に向かって言っている。生命力を吸い取られ、干からびてしまえ。なぜ平気なのだ」
「この盾のおかげだな」
「ぐおおお、力が抜けていく」
男はエビルドラゴン装備を外した。
「どうだ。大人しく捕まるか」
「まだまだ、エビルドラゴン装備など、所詮借り物の力よな。腐ってしまえ。【腐敗】」
腐敗かこの力も反射するんだよな。
ついでに因果応報魔道具も使っておこう。
「お前はどこの誰だ? 大人しく捕まって応じれば治療してやるぞ」
「くっ、体が腐る。スキルの行使をやめたのになぜ腐り続ける」
「邪神教の教主として、大勢の命を奪った報いだ受け入れろ」
邪神の声が聞こえた。
こいつは邪神教の教主だったのか。
「うわっ、ぐがっ、なぜに。邪神様」
もう、教主は腐り果てた塊だ。
だがその声は止まらない。
生命力を吸い取っていたから、ほぼ永遠に腐り続けるらしい。
さて、後始末か。
エビルドラゴン装備は始末するとして、草木などを復活させないといけない。
「お前がやったのだから、お前が後始末しろ」
俺は腐った塊にエビルドラゴン装備を押し付けた、そして反転の魔道具を作って起動した。
生命力が放射されて萎れていた草木が元に戻る。
生命力を出しきった腐った塊は塵になった。
邪神教もこれで今度こそ壊滅するのかな。
まあ、何度来ても同じ事だが。
エビルドラゴン装備を手に持って売買の魔道具を起動した。
神のコインがたくさん出てくる。
始末料と言ったところか。
エビルドラゴンの素材を売ったのは失敗だったな。
俺としてはモンスター退治に使って欲しかった。
ドレイン攻撃は強いからな。
まあ、過ぎたことを言っても仕方ない。
俺は冒険者ギルドに報告に行った。
「エビルドラゴン復活は誤報で、邪神教の教主がエビルドラゴンの武具で悪さをしていた」
「そうですか。近づくとやられてしまうので、確かめることができなかったんです」
「ギルド職員の落ち度ではない。俺の落ち度だ。エビルドラゴンの素材を悪用されるのを考えなかった。今回、被害者はいるのか?」
「エビルドラゴンの話は前の討伐で知れ渡っていますから、みんな逃げ出しました。犠牲者はいません」
「そうか。迷惑料としてお金を出したい。冒険者ギルドで分配してくれるか」
「ええ、そういうことなら」
俺も職人としてまだまだだな。
俺の失敗で、人々を危険にさらしてしまった。
ただ、魔道具の悪用問題は、完全には解決できない。
包丁は料理の道具だが、凶器にもなりうる。
包丁を作った職人は美味しい料理を作ってほしいと思って包丁を作っただろう。
そういうことは常に起こりえる。
この問題は永遠に解決しないのかも知れない。
今回は俺の手で後始末が出来てよかった。
これからも悪用された場合は後始末はきっちりしたい。
それが俺の職人としての責任だと思う。
工房に帰り、クラッシャーを磨く。
魔石を磨いて、傷がないか確認。
まだ未使用の導線が切れそうになってないか確認。
仕事をしているうちにモヤモヤした心が少し晴れた。
魔道具職人として一生、精進を続ける。
精進には今回みたいなことを防止するのと、事が起こってしまったら後始末が含まれる。
それが償いのような気がする。
そして、失敗から学ぶのが人としての成長だ。
そう肝に銘じた。
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