第140話 ライアーの末路

Side:シナグル・シングルキー


「大変よ」

「マギナ、どうした? そんなに慌てて」

「戦争が起こりそうなの」


 俺達がいるトレジャ国と、アンク―ス国が、戦争寸前らしい。


「原因はなんだ?」

「それがどっちの国も、相手が攻めてくるっていう噂があって。それから兵士が集まって、にらみ合いになって、今は一触即発」


 きっと、虚言のライアーの仕業だろうな。

 俺は前線に転移で飛んだ。

 良かった、まだ戦いは始まっていない。


 戦いをやめさせるには、郷愁の魔道具かな。

 歌は『ラーラ♪ラーラーラー♪ラララ♪ラー♪ララー♪ララーララ♪ラーラーラ♪ララ♪ララー♪』で良いな。

 核石と溜石と導線を古ぼけた木に付けた。


 魔道具を起動する。

 兵士達がざわめいて一人、また一人と戦線を離脱していく。

 最初指揮官は、喚いていたが、双方が同じなので諦めた。

 国を守れさえすれば目的は達する。


 双方が兵を退く事態は喜ばしいことだ。


「逃げるな。なんでスキルの力が効かない」


 敵陣で喚いている男がいる。

 参謀のようだが、この声には覚えがある。

 虚言のライアーだ。


 因果応報魔道具発動。

 虚言のライアーの声に誰も耳を傾けない。


「俺は参謀長だぞ」


 虚言のライアーは無視された。


「おい、話を聞けよ」


 兵士の肩を掴むが、振り払われて、目線すら合わせない。

 虚言の代償は、みんなに無視されるってことか。


「あー、何でだ」


 軍は撤退した。

 虚言のライアー一人だけが残された。

 どうなるか後をつける。

 ライアーは近くの村へ入った。


「食い物をくれ。金貨をやるぞ」


 だが誰も反応しない。

 この刑罰は考えようによってはかなり重いな。

 誰とも会話できないって俺には耐えられない。


 ライアーは家に入ると勝手に食い物を食った。

 だが村人は反応しない。


 ライアーはわざと暴れたが、やはり誰も反応しない。

 暴れ疲れて、横になるライアー。


 そして、次の日も、次の日も同じだった。

 もう暴れる気力もなくなったようだ。


 俺はその様子を魔道具で見ていた。


「誰か話を」


 ライアーは剣を抜くと、手首を切ったが、血が出ない。

 償いが終わるまでは死ねないってことね。


「がぁ、これが報いなのか。邪神様、助けて下さい」

「罰を受け入れろ」


 邪神の声が聞こえた。


「そんな。何か言って」


 邪神はもう応えない。

 うん、因果応報といえ少し同情する。


 ライアーは持ち物を全て村へ置いて行った。

 俺は転移するとそれを調べた。

 邪神教の幹部は、3人らしい。

 アコニット、ダーク、ライアーもう全員が罰を受けたな。


 残るは邪王という邪神教の最高幹部ひとりのようだ。

 いよいよ、邪神教対決も終わりか。


 妙に人恋しくなった。

 ライアーみたいに無視されたらと想像してしまったのだ。


 工房を閉めて、今日は宴会をすることにする。


「戦争にならなくて良かったぜ。この街まで進軍されたら弟妹を守るために戦わなきゃならん。敵の兵士だって家族がいるから、そうなったらつらい」

「ええ、街を守るためには、モンスターの心にならないとね」

「戦争の話はやめよう。回避できたんだから」


「そうだな」

「ええ、そうね。戦争は悲しいから」

「戦争は悲しいのね」

「スイータリアちゃん、悲しいのよ。活躍して英雄になるひともいるけど、私は人を殺して勲章は貰いたくないわ」


「さあ、美味い物を食べて、忘れよう」

「この魔道具なあに」


 スイータリアが郷愁の魔道具を起動した。


「やけに我が家が懐かしいぜ」

「私も小さな時に住んでた家が懐かしいわ」

「私も故郷に帰りたくなった」


 俺もだ。

 そのうち暇を見つけたら故郷に帰ってみようか。


「スイータリア、魔道具には危ない物もあるから起動したら駄目だ」

「ごめんなさい」

「まあ俺も片付けておかなかったのも悪い」


「私の故郷はね。人情味あふれる街なのよ」


 ピュアンナが語り始めた。


「この街も負けてないぜ」

「故郷に優劣付けても仕方ないの。誰も自分の故郷が一番だと思うわ」

「マギナさんの、言う通りね」

「あたいは、他人の故郷を馬鹿にしたりしない。誰の故郷も素晴らしいぜ」

「うん、私もこの街が好き」


 俺はあの田舎を好きだと言えるのだろうか。

 でも郷愁に駆られた。

 きっと今帰ったら懐かしくて、涙が出るに違いない。


 故郷の話で宴会は盛り上がった。

 俺の故郷の話もした。

 話し始めると思い出が次々に頭に浮かんだ。

 失敗したことが多いような気がする。


 もちろん嬉しかったり楽しかったりしたこともある。

 マニーマインとの思い出が一番多いな。

 マニーマインが無茶してたっけ。


 話してたら、郷愁はかなり小さくなった。

 でもいつかは帰る。

 日本への郷愁が癒えてないのに気づいた。

 日本へ帰るべき何だろうか。


 異世界交流が始まるとトラブルが増えるんだろうな。

 侵略しようと思う国も地球にはある。

 やはり前世は忘れるべきか。

 たまに物を取り寄せるぐらいに抑えるか。


 ポテチとコーラとハンバーガーを取り寄せた。

 それをみんなで食べると、一層、郷愁が強まった。

 ソルにハグされて、少し郷愁が弱まった。


「別の世界に飛んで行って帰ってこないような顔をしているぜ」

「わたしもハグする」


 4人にハグされて、俺の生きる世界はここなんだなと思った。

 日本への郷愁は良くない。

 忘れよう。

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