第139話 逃亡
Side:ベイス
「捕まえろ!」
「コラプト、これを見てもそう言えるのか」
そう言って俺は殺されたはずの男のフードを取った。
「くっ、お前は。生きてたのか」
「こいつはコラプトの殺されたと言っている。なぁ」
「はい、襲ってきた奴の声はコラプトのものでした」
当然、魔道具は起動してある。
出てきた守備兵達がざわめく。
「そんな声が似てただけの証言なんか通るか」
「証人はまだいる。おい」
「はい、コラプトと証人が酒場で密談していると聞きました。内容は汚職がばれそうなので、コインシェープさんに罪を被って貰おうっていう話でした」
「俺も同じ話です」
「俺もです」
「どうだ証人が3人もいるぞ」
「あの個室の声がもれるはずない」
「はははっ、馬鹿だな自分から認めている。個室で密談したと誰も言ってないのにな」
「くっ」
「往生際が悪いな」
コインシェープがそう言って前に出る。
「コインシェープ、お前さえいなければ」
コラプトは剣を抜いた。
コインシェープが剣を抜いて一閃。
コラプトの手が叩かれ、剣を落としたコラプトは捕まった。
一件落着だな。
「ベイス、世話になったな。日没まで飲むか」
「ああ、そうしよう」
休戦の終了時間まであと4時間あまり。
祝杯を上げるには良い時間だ。
「では悪党が減ったことに、乾杯」
「お前は悪党なのに仲間が減って嬉しいのか、乾杯」
ぐっと一気に酒を呷った。
「悪党は俺一人で良い。そうなりゃ、上りは全て俺の物だ」
「正義のためにと言わないのがお前らしいな」
「いや、俺はいつだって正義だ。法を犯したことなど一度もない」
「白々しいな」
「調べてみろよ」
「言われなくてもな。妻殺しの上に罪状を上積みしてやる」
「かぁ、何でこんなに頭が固いのかねぇ。そんなんじゃ疲れないか」
「疲れないさ。懐柔したいという魂胆が丸見えだぞ」
「お前が、壊れないか心配なんだよ。硬い物ほど衝撃に弱い。強い衝撃で壊れちまう。お前さんがそうならないことを祈るよ」
「余計なお世話だ。お前こそいつも悪だくみで良心が痛まないのか」
「これっぽっちも痛まない。そうだ、コインシェープ、女房のアンファティの墓に花を手向けてくれないか。花が好きだったからよ」
「お前が手向けるんだな。もっともそう言う機会はないかも知れないが」
「なぁ、俺の事件にこれっぽっちも疑問が湧かないのか。良心が痛まないのかよ。無実の奴を追いかけ回しているかも知れないんだぞ」
「それは……」
あの魔道具の効果かな。
俺のことを信じようとしている。
「モヤモヤしないのか。真実の声に耳を傾けようとは思わないのか」
「うるさい。酒が不味くなる」
とりあえずコインシェープの中の疑念が育てばいい。
おかしいとは思っているみたいだな。
「誘ったのはそっちだぞ」
「ええい。くそっ。ああ確かにおかしいのは認める。だが証拠を集めてお前を処罰してやる……。ぐう……」
やっと眠り薬が効いたか。
休戦が終わってすぐに追いかけられるのは勘弁だからな。
お前が誘ったからそっちの奢りで良いな。
「金は寝ている奴が払う。恰好で分かるかも知れないが、本物の守備兵だから食い逃げはしない」
「へぇ」
さて、痕跡を消さないとな。
門は変装すれば、出られる。
髪の毛を染めればたぶん気がつかないだろう。
せっかくだから、髪を短くして髪型も変えるか。
徒歩で出るにしても、出た門で次に行く方向が分かっちまう。
ここは裏をかいて、門を出たら、街をぐるりと回って、反対の門に続いている街道を利用しよう。
「はぁはぁ、反対側に出るのはしんどいな。やっとかよ」
荷馬車が街から出で来るのが見えた。
「へいっ!」
「どうしたんだ?」
荷馬車が停まった。
「野菜を売った帰りだよな」
「おう」
「銀貨1枚で村まで乗せてってくれないか」
「いいぜ。どうせ空荷だ」
「ありがとよ」
荷馬車の荷台に寝そべってゴザを被る。
これで行き交う人に俺は見られないはずだ。
夕暮れまでには村へ着いた。
夜の道は物騒だ。
この村へ泊まる方が良いが、滞在すると顔が村中に知れちまう。
「俺は極度の閉鎖恐怖症でな。屋根があるだけで怖い。この荷馬車の荷台を貸してくれ。朝になったら消えていると思うが気にするな。早くに発たないと次の村へは到達できないからな」
「そんなことなら歓迎だ。俺も朝は早い。まだ寝てたら起こしてやろう」
「おう、頼む」
次の日、空が白くなったのでこそっと旅立つ。
来た道を戻り、分かれ道で別の道へ行く。
まさか戻って別の道に行くとは思わないだろう。
ここからは時間の勝負だ。
俺が捕まるか、コインシェープが俺の無実の証拠を探し当てるかだ。
だが、他人をあてにするだけじゃな。
俺も、調べよう。
俺を嵌めたマスタマインドとオフィッシャーがどんな汚職をしていたのか調べるんだ。
汚職の証拠なんてなかなか隠せない。
金や商品が動いていれば人の数もそれだけ動く。
特に美味しい思いをするほどの金や商品なら、大量のはずだ。
絶対に証拠はある。
元居た街に戻る必要があるな。
コインシェープの裏をかければ良いんだが。
だが、犯罪者は現場に戻るとも聞くし、気を付けよう。
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