第138話 犯罪者の世界にようこそ

Side:ベイス

 コインシェープが、守備兵に囲まれた。

 いよいよだな。

 コインシェープの背後からそっと近づく。

 声が聞こえる位置まできた。


「コインシェープ、殺人容疑が掛かっている。同行してもらおう」

「俺がか」

「証人もいる。おい」


「確かにこの人が人を殺すのを見ました」

「なぜ嘘を言う」


「さあ、大人しくついてきてもらおう。守備兵のくせに殺人しやがって」


 ここだな。


「【恫喝】止まれ!!」

「この声はベイス。何の真似だ」


 俺はコインシェープを担ぐと逃げた。

 奴がばたばた暴れるので降ろす。


「なんのつもりだ」

「よう、ご同輩。犯罪者の世界にようこそ」

「お前が仕組んだのか」

「いいや。悪だくみを聞いたから助けてやろうかなと。嫌なら別に良い。好きな場所に行け」

「知っていることを吐け」

「コラプトって守備兵がいるよな」

「ああ、同僚だ」


「そいつが商人と癒着している」

「ああ、守備兵の武器納品の汚職だな。目録と実際の配備された装備が違うから疑問に思っていたがあれか」

「そうそれ。で口封じされそうになったってわけだ。感謝しろよ」


「犯罪者に助けられるとはな」

「俺もお前と同じような手口にやられたんだよ。金貸しのマスタマインドと役人のオフィッシャーが癒着している」

「証拠は?」

「ない。二人が安宿で会ってたという俺の証言だけだな。だが調べれば必ず何かが出る」

「口から出まかせだな。お前みたいな奴が良く使う手だ」


 こいつ、本当に頭が固いな。

 だが、疑念を植え付けられれば今回は良しとしよう。


「コインシェープの無実の証拠ならある。だが正面切って乗り込むとたぶん返り討ちだろうな。ああいう奴の思考は良く分かる」

「ふん、正義は勝つので問題ない」

「そんなこと言っていると死ぬぞ。とりあえず倉庫に隠れるぞ。倉庫番が味方だ」


 本当に正義感ばかり強くて頭が固い。

 嫌になるぜ。


「死ぬのは怖くない。だが無実の罪では死にたくない」


 倉庫に着いてそうそうにコインシェープがそんなことを言う。


「だよな。こっちは殺されたはずの男を証人として押さえてる」

「そんな有力な証人を押さえてるのに正義が通らないのか」

「ああ、コラプトは今頃金でこの街の守備兵の大半を抱き込んでる。賭けたって良い」

「くそっ、コラプトめ」


「あっちは証人をでっち上げたから、こっちもでっち上げる」

「偽の証人に偽証させるのか」

「嘘は言わせない。本当のことだけを言わせる」

「どういうカラクリだ?」


「俺、コインシェープ、殺されたはずの男、この3人の話を証人に聞かせて、聞いた話なんだがと言わせる」

「お前は悪だくみの時の会話も聞いているんだよな」

「だから、証人としては十分だ」

「上手くいくはずがない。守備兵の大半は抱き込まれていると言ったではないか」


「おっ、それぐらいは分かるか。それである所で真実を信じてもらう魔道具を作る」

「そんな便利な物があるのか」

「だが、そこの職人は偏屈でな。心動かす何かがないと動かない。証拠の品があるとなお良い」


「俺にそれを出せと言うんだな」

「コインシェープの心の品を見せろ」


 コインシェープは考え始めた。

 縛るのに使うロープでも何で良いだろう、早く出せよ。


 コインシェープは何を思ったのか、俺の手配書の裏に何か書き始めた。

 読んでみた。


 悪を倒すために、悪党であるベイスと休戦する。

 日没までだ

 コインシェープとある。

 ちくしょう、こんなのでシナグルが心動かされるかよ。


 だが、持っていくしかない。

 その前に、借金でひいひい言っている奴を捕まえる。

 そして、証言を頼むのだ。


「お前、ギャンブルで首が回らないらしいな」

「はい」

「良い儲け話を持ってきた。俺達3人が話すことを聞いた話として喋ってくれたら良い」

「そんな簡単なことで」

「おうよ。金貨1枚だぜ」


 3人もいればいいな。

 真実を信じてもらう魔道具が欲しいと願う。


 扉が現れた。

 入ると、いつもの工房でシナグルと小さな女の子がいた。

 机の上は綺麗に掃除されていて、道具は棚や壁に綺麗に収まっている。

 几帳面で細かいことに気がつくのだろうな。

 だから、出し抜くのが難しい。


「いらっしゃい」

「いらっしゃいませ」


「何の魔道具が欲しい?」

「真実を信じてもらう魔道具だ。これが誠意だ」


 俺は手配書を差し出した。


「無実の罪で逃げているとは聞いたが、賞金首とはな。そして守備兵が休戦するという一筆か」


 シナグルは考え込んでいる。


「駄目なら別の物を持って来る」

「いや、ややこしい事態になっているが、信じてやるよ。悪を倒すためなら助力するのもやぶさかではない。作ってやる。ラーラララ♪ラ♪ララーララ♪ララ♪ラ♪ララララー♪ラ♪、ラー♪ララララ♪ラ♪、ラー♪ララーラ♪ラララー♪ラー♪ララララ♪」


 できた核石と溜石と導線は本に付けられた。

 真実の本ってわけだ。


 本を手に取ると俺は、コインシェープのいる宿に帰った。


「準備はばっちりだ。だがこれだけは言っておく、俺は妻を殺してない。そして黒幕は恐らく金貸しのマスタマインドと役人のオフィッシャーだ」


 その言葉をこっそり魔道具を起動して言った。

 コインシェープは真実を言っている俺の言葉を信じたはずだ。

 これぐらいの役得がなきゃやってられない。


 さあ、悪党退治だ。

 俺、コインシェープ、殺されたはずの男、3人の証人で、堂々と、守備兵の詰め所前に立った。

 出て来い悪人共。

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