第35章 真実の声

第137話 カラクリ

Side:ベイス


 フードを被って、酒場で一人酒。

 くそっ、賞金さえ掛かってなきゃな。

 こんなにこそこそする必要もないのに。

 おっ、顔を知っている守備兵の誰だったっけさんがやってきた。

 こいつ、遠く離れて何をしている。

 俺を追っているコインシェープの応援じゃないだろうな。


 誰だっけさんは商人らしき奴と個室に入った。

 俺は個室の壁近くのテーブルに移った。


 そして、個室の壁に背中を預けて座った。

 ふっ、こういうときは錐だ。

 これで穴を開けてと、耳を押し付ける。


「コラプトさん、不味いですよ」


 ああ、思い出した。

 誰だっけさんはコラプトだった。


「びびるな。コインシェープの野郎はまだ俺達の汚職の情報の端を掴んだだけだ。汚職の犯人として俺達の名前も知ってない」

「ですが、捜査されたら」


「奴はいま特命を帯びている」

「特命とやらをこなすうちに私達のことを忘れますかね」

「特命が終わったら、十中八九、動き出すだろうな」

「どうします?」


「先手必勝よ。こっちから仕掛ける。汚職に噛んでる奴を口封じに殺して、その罪をコインシェープに背負って貰う。一石二鳥って塩梅だ」

「それは良い考えですね」


「目撃者をでっち上げれば良いだけだからな」


 なんか既視感が、そう言えば、あの時マスタマインドと一緒にいたのは役人のオフィッシャーだ。

 くそっ、カラクリが読めた。

 あいつら、悪だくみの密会を俺に見られて、それで妻殺しの罪を着せたんだな。

 くそっ、証拠は何もないが、そうに違いない。


 あの時の俺ならそういう美味しい情報を掴んだら強請ってただろう。

 それで、こいつらみたいに先手必勝とやられたんだな。


 今は俺の事件は別に良い。

 ここで美味しい汁を吸う方法は?


 こいつらを強請るのはだめだ。

 俺はお尋ね者、捕まってそれまでだ。


 ここはコインシェープに恩を売る場面かな。

 あの堅物が恩に着るかは分からないが、俺の事件に疑いを持ってくれるだけで良い。

 そうすれば情報が集まる。

 それだけでもありがたい。


 さて、恩を売るには、コインシェープが危機に陥ってからだな。

 コラプトの後をつける。

 奴も別の人物の後を付け始めた。

 そいつは酒場に入っていった。


 俺は何食わぬ顔で、酒場に入る。

 そして付けられてた奴のテーブルに座った。


「お前さん、死相が出てる。良くないね」


 俺はそう話し掛けた。


「気味の悪い奴だ」

「死相を消す方法を知ってる。湿った布を腹に巻くんだよ。ちょうど俺は布を持っている。俺は優しいからただでやろう」

「本当にそれで死相が消えるのか」

「ああもちろん」


 腹以外を斬られたら知らないがな。

 その時は運がなかったと諦めてくれ。


 厨房で水を貰って布を濡らす。

 後はあれだな。

 あるな。


 ニワトリの血を金で譲って貰った。


「ほら、布だ。お前は今夜水がラッキーアイテムだ。何かあったら川の方向に逃げろ」

「覚えておく」


 そいつは酒を飲むと帰路に就いた。

 そして、覆面をしたコラプトが人気のないところで斬り掛かった。


「何をする」

「くそっ、浅かったか」


 男は川に向かって走り出した。

 俺はニワトリの血を撒きながら追う。

 そして、途中でコラプトを追い抜いた。

 足の速さには自信がある。


 取り立てするには必要だからな。

 借金が返せない奴は大抵逃げる。

 逃がすなんて甘い事してたら食っていけない。


 男に追いついた。


「こっちだ」

「あんたは、占い師」

「そこの茂みに隠れてろ」


 俺は盛大に血を撒いて、石のでかいのを拾って投げた。


「うわー!」


 叫び声を上げて隠れる。

 コラプトがやってきた。


「くそっ、水音がしたな。川へ落ちたか。だがこの血の量じゃ助からない」


 そう言ってコラプトは引き上げていった。


「もう出て来て良いぞ」

「助かりました」

「犯人はコラプトだって知っているよな」

「ええ、声で分かります」


「状況は飲み込めているよな」

「ええ」


「匿ってやる。なに悪いようにはしない。俺の懇意にしている守備兵がいる。こいつは頭は固いが、正義感が強い。こいつにことを収めさせる」

「はい」


 男を連れていったのは、倉庫街だ。

 倉庫番をしてもらう。


 変装は、髪の毛を染めて髭を伸ばさせた。

 10日もすれば、親しい者でもぱっと見は分からない。


 さて、コインシェープはどこにいるかな。

 出て来てほしくない時には出て来て、肝心な時にいない。

 間の悪い奴だ。


 仕方ないおびき出すか。

 俺を見かけたとの偽のタレコミをした。

 待つこと1日、その酒場にコインシェープが現れた。

 あとはコインシェープを見張るだけだ。


 奴が俺に気づかないかひやひやしたが、意外に気がつかれない。

 きっと、追いかけるべき犯人が反対に尾行しているとは思わないのだろう。

 盲点だな。


 尾行とかの類は得意だ。

 借金取りに必要だからな。

 借りた本人ではなく、その妻とかを尾行するなんざざらにある。

 借りた奴の所に案内してくれるからな。


 俺の妻が殺された事件が終わったら、探偵でも始めてみるか。

 いいや、たぶんすぐに飽きるだろうな。

 ひとの浮気なんか調べて何が面白いって言うんだ。


 しょうもないことを考えた。

 俺のスキル盗足は、役立っている。

 尾行にこれほど適したスキルもない。


 コインシェープは俺が尾行しているとは微塵も思ってないようだ。

 一度も振り返らない。

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